第7章 死神編【後編】
「今すべき事では無い。」
「でも……。」
彼が振り返ったかと思えば途端にふわりとゆうりの口元が掌で覆われた。白哉は普段と変わらぬ表情のまま彼女へ顔を寄せる。不意に縮まる距離にゆうりは息を飲んだ。
「…何を急く必要が有る。今後鍛錬をするなと言っているのでは無い。1週間体を休め、万全の状態に戻せと言っているだけだ。それも聞けぬと言うのならば、身動き取れぬ様私が付ききりで面倒を見てやろう。」
「……ごめんなさい、大人しくするわ…。」
「それで良い。」
冗談とは取れぬ物言いにヒヤリと汗が伝った。口元の手を強引に降ろし間を開けて言葉を紡ぐと、白哉は口を塞いだ手で彼女の頭を優しく撫でる。
「書庫に行くくらいは許して貰える…?」
「…真にじっとして居られぬ性分の様だな。」
「何冊か借りてからは部屋で大人しくするから…!」
「…分かった。時折見に来る。万が一約束を破るようなことがあれば…相応の覚悟をしておけ。」
「もう、ほとんど脅しだよ…。」
「言うことをまるで聞かぬのが悪い。失礼する。」
今度こそ踵を返し彼は行ってしまった。休暇を与えた事も、鍛錬を禁止したのも白哉なりの優しさとは分かっているものの、何も出来ないというのもまたゆうりにとってとてももどかしく感じる。それならばせめて、書庫で何か、彼らの目的を掴む為の情報となるものが得られれば…そう思った。
直ぐにでも向かいたかったが生憎今日は大量の見舞いの品をまずどうにかしないとならない。花は花瓶に生け、フルーツは仕舞い、酒も保管しなければ。やることはままある。兎に角物を片付け今日の午後は休む。そして明日、書庫へが向かおう…。そう決めたゆうりは早速作業に取り掛かり始めるのだった。
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