第7章 死神編【後編】
「似てる……?」
「あぁ、兄かと見違った。」
「……私に、兄は居ないよ。」
そう言って俯いた彼女は何処か狼狽えている様に見えた。斬魄刀をキュッと握り、手の甲には汗が伝う。
兄など居ない、それは本当だ。しかし白哉の言葉に胸が酷く痛んだ気がする。京楽は彼女の不自然な反応に瞳を細めたが、何か言うわけでもなく静かに口を閉ざすのだった。
「着きました、ここが私の部屋です。わざわざ運んで貰ってありがとうございました。」
「これくらいお安い御用だよ。困ったらいつでもボクの所においで。」
「何かあればまず隊長である私の所に訪れるのが道理だ。ゆうりが兄の元へ行くことは無い。」
「そんな事無いって、朽木隊長ではどうにも出来ない事とか有るかもしれないでしょ?」
「…喧嘩を売っているつもりで有るのならば買おう。」
「あれ、まだ血が昇りやすいの治ってなかったのかな?」
「ちょっと、喧嘩するなら外でやってください!」
バチバチと視線で火花を散らす2人にゆうりは慌てて間に割り込み、胸に手を当て離すように押しやった。京楽達は互いから視線を外すと同時にゆうりを見下ろす。
「それじゃ、ボクは仕事行ってくるかな。元気になったら呑もうね。約束だよ〜?」
「はい、是非。」
京楽はゆうりの頭を軽くぽんぽんと叩いてから背を向け己の隊舎へ帰って行った。残った彼も踵を返す。
「…1週間、好きに休むといい。だが鍛錬は禁ずる。少しでも素振りを見せれば我が屋敷に縛り付けてでも休ませよう。」
「そ、そんな……1週間も身体動かせないなんて…。」
「無論、執務も許さぬ。」
「酷い…!!」
「恨むのであれば体調を崩した己を恨み悔やむが良い。…回復次第、引き続き私の元に戻れ。」
「…分かった。」
ゆうりはコクリと深く頷いた。ごねるかと思いきやあっさりと受け入れた彼女の違和感に気付き、白哉は視線を流す。ゆうりは一瞬だけ斬魄刀を見遣った。
「………やけに聞き分けが良く見える。よもや精神世界で斬魄刀と鍛錬を、と考えてはいるまいな。」
「な、なんで分かったの…!?」
「視線が斬魄刀へ移っただろう。」
「鋭い…。…卍解を会得したいの。」