第7章 死神編【後編】
袖口を掴んだ手を離し、代わりに手を繋いだ。何度も触れたことのある大きな手は何処か安心出来る。静かに瞼を降ろしたゆうりは市丸に対してまるで警戒心の欠けらも無い様に見えた。
「いつも、ギンに頼ってばっかり。ごめんね。」
「それだけボクを信用してくれとるいう事やろ。悪い気はしいひん。」
「……うん、信じてるよ。」
穏やかな声で告げられた言葉に市丸の胸の内がザワついた。
嘘や。
ほんまにボクが何も知らんと思っとるんか。現世で誰に会うて、何をしてたか分からんと思うとるんか。…知ってはるやろ、全部。昔何があって、ボクらが何をしたのか。……なぁ、キミは何するつもりなんや。何企んどるん。何で、事件の真相を知って尚ボクに無防備な姿晒してしまうんや。
「……なぁ、今何考えとるん。」
「早く治して仕事したい…。」
「…それ仕事中毒言うねんで。せやからこんな風邪引くんやろ。しばらく有給使って休むのが正解や。」
「鍛錬もしたいし、会いたい子も居るの…。」
「…ほんなら風邪、ボクに移すか?」
「移す?」
「人に移すと治るってよう聞くやろ。…こういう事。」
額へ当てた手をベッドについて身を乗り出した。鼻先が触れそうな程顔を寄せるもゆうりは嫌な顔一つ見せない。ただ風邪で判断が鈍っているのか、もとより抵抗する気が無いのか表情からは汲み取る事は出来なかった。
「…本当に移るよ。」
「ボクはええよ、仕事サボれるしなぁ。」
後もう数センチも無く唇が触れる直前、扉が開く音がした。ゆうりはチラリと視線を向け市丸は振り返る。そこには真っ赤な顔した吉良が立っていた。
「失礼しま………えっ!?」
「あ、イヅル久しぶり…。」
「……あん時の子か。」
「いや、あの…すみません…。……や、やっぱりゆうりさんと市丸隊長ってそういう関係だったんです、ね…。」
「せやよ。ちんまい頃に予約済や。」
「違うよ。氷嚢ありがとう。」
間の悪い訪問者に市丸は肩を竦めて身体を上げ、吉良は忙しなく視線を逡巡させながら部屋に足を踏み入れ、ゆうりに氷嚢を渡して額へ充てた。ひんやりとした感触がとても気持ち良い。
「僕邪魔になりますし、出てますね。」
「……待ちや。ボクもそろそろ仕事戻らなあかんし行くわ。イヅルやったっけ?ちょっと話そうや。」