第2章 過去編
「これからオレの事は平子さんじゃなくてシンジって呼びや。敬語も要らん。はい約束〜。」
「えっ!?でも、歳上の人には敬語と教わってますし…。」
「指切りげんまんしたから聞きませんー。」
「い、意地が悪いです…。」
約束というより半強制的な提案にゆうりはグッと押し黙り困惑した表情を浮かべた。普段にこにこ笑顔を浮かべる彼女がそのような顔をするのは少し新鮮で、加虐心を煽られる。
「敬語辞めるまで反応せんからな!」
「うー…!!」
つーん、とそっぽを向く平子。ゆうりは暫し唸り考えた挙句、結局肩を下げて溜息を漏らした。
「……わかった、敬語は辞めるからこっち向いて。」
控えめな声で発せられた言葉に彼はチラリとゆうりへ一瞥くれるとニンマリ笑って彼女と向き直る。そして先程よりも上機嫌な声のトーンで返し、絡めていた指を解く。
「偉い偉い、ゆうりは素直でええ子やなぁ。」
「無理矢理させておいてよく言う…。」
「ここに居ると歳上ばっかで過ごしにくいやろ、気遣いや、気遣い!」
「ひよ里ちゃんも阿近もギンもいるからそんなに寂しくないよ?」
「そないな事言われたらオレがショック受けるわ!!ちゅーかひよ里に至ってはゆうりより歳上やぞ。」
不貞腐れた顔でどさりと床に座り込んだ平子。ゆうりは見た目に反し子供っぽい表情と仕草を見せる彼に喉を鳴らし静かに笑った。
「真子さんってちょっと子供っぽい所有るよね。いつもは飄々としてるのに。」
「何言うとるん、オレはどっからどう見ても大人やろ。ゆうりは早くオレに追いついてや。」
「何で?」
「もうちょい大人になってくれへんと手、出せへんわ。」
彼の細く骨張った指先がゆうりの髪をひと房掬い、淡く桃色がかった毛先へ口付ける。
一連の動作にゆうりの頬はほんのりと色を持つ。その姿を見られるのが更に照れ臭くて、顔を逸らした。
「…し、死神って結婚出来るの?」
「出来るで。子供も作れる。」
「死んだ筈なのに、本当にまだ生きてるみたいで不思議…。」
「死神になったら生きてた時よりよっぽど長い時間魂魄として生き続けることになるで。」
「え、そうなの?」