第2章 過去編
あの不思議な夢を見てから数日が経った。あれから毎晩同じ夢を見る。最初と違う事もあって、少しずつだけど男の人の姿がぼんやりと見えるようになってきた。しかし、未だに名前は分からず仕舞い。一体彼は何者で、私の何なのだろうか…。俯き、考えながら歩いていると突然ポスッと誰かにぶつかった。
「わぷ……す、すみません。」
「随分ぼんやり歩いてたなぁ。オレにぶつかるまで全然気付かんかったやん。何か考え事でもしとった?」
「あ…平子さん!」
顔を上げると衝突した相手と目が合った。どうやら彼はゆうりが歩いて来ているのを分かってて避け無かったらしい。
ゆうりは手の中に抱えていた書類を平子へと差し出した。
「 浦原さんから預かってた書類です。考え事というか…ちょっと不思議な事があって。」
「書類は確かに受け取ったわ。不思議な事?」
ゆうりは顎に手を当てた。言うべきなのだろうか。あの夢が何なのか分からない以上手詰まりだ。図書館には現世に咲く花の本など無く、あれから何か際立った進展があったとすれば彼の姿がうっすらと見えただけ。相談してみるのも良いのでは…?そう考えが行き着く。
「…はい、相談させてもらっても良いですか?」
「……なんや難しそうな話やな。オレの部屋おいでや。今日惣右介もギンも居らんし、ゆっくり聞いたるわ。」
「ありがとうございます。」
踵を返した平子の後を追った。隊舎に人は居るが執務室には確かに誰も居ない。そして彼は自分専用の椅子に座り、ゆうりはその前で正座する。
「そんな固くならんでえぇよ!別に説教する訳とちゃうしな。」
「は、はい…!」
「なんならまたオレの膝くる?」
「話しにくいんで大丈夫です。」
「残念やなぁ…。」
平子は唇を尖らせ頬杖を付く。ゆうりは彼の言葉に甘え正座を崩し座り直した。
「実は、数日前から変な夢を見るんです。」
「夢?」
「はい。何も無い真っ白な世界に居て、誰かが私を呼ぶんですよ…。けれど、その人の姿は全然見えなくて、名前を教えてくれてる筈なのに、聞き取れなくて…。」
それだけ話すと平子はポカンと口を開けた。そして椅子から立ち上がり、彼女の前にしゃがみ込む。
「それほんま?」
「嘘じゃありません。私、彼の名前を呼んであげたいんです。ソレを望まれてるから。」