第2章 過去編
「美味しい。」
「そら良かったわ。ボク隊長になったら隊舎に柿の木植えるって決めとるんよ。そうすればいつでも食べられるやろ?」
「ふふっ、確かに!早く隊長にならないとね。」
「そやね。ゆうりが死神になったらボクの居る隊に来てや。」
「考えとくよ。」
「そこは、はい。でえぇやろ…。」
少しだけ、市丸の顔が不服そうに歪んだ。その表情を見れた事が嬉しかった。いつも同じ表情をしていたから。彼のちょっとした変化を見るのが面白い。
「なぁ、それよりコレ誰や?狡いやん、膝枕。」
「阿近だよ。私と同じ十二番隊に居るの。寝て無さそうだったから無理矢理連れて来ちゃった。」
「なるほどなぁ…?」
市丸はゆうりの膝ですやすやと眠る阿近の顔を見詰めた。起きる気配は特に無さそうだった。ただゆうりと近しい距離に自分と似たような歳の男が居るのが気に食わない。
「ほなボクも肩借りよ。」
「え、ギンも寝ちゃうの?」
「ちょっとしたら起こしてや。」
肩にずっしりと彼の頭が預けられる。そしてゆうりの手に彼の手が重ねられ、掌を返すとそのまま指を絡め握り込まれてしまった。
「もー…私も寝ようかな…。」
繋いだ手を握り返したゆうりは身動きとる事も出来ず困ったように声を上げると、すぐ真横にある市丸の頭へ自分の頭を寄せる。
しばらく時間が経った頃、彼女も眠りに落ちた。そのタイミングを知ってか知らずか市丸が身体を起こす。
「…あかんなぁ、警戒心無さすぎや。」
繋いでいる手とは隻手で、自分と似た銀色の髪を片側へ寄せる。顕になった白い項を見詰めると密かに唇を寄せ薄い肌を吸い上げた。くっきりと残る花弁のような鬱血痕を満足気になぞる。そしてそのまま指先を伝わせ片耳に付いたピアスへ触れた。
「こないなモンつけられて…千切り取りたくなるやん。」
人差し指と親指で輪を作り耳を飾るソレを軽く弾いた。もちろんそれで取れる訳もなくただ少し揺れるだけだ。
「男は皆狼やて、その内ボクが教えたるわ。」
薄く持ち上げた瞼から覗く瞳に映る彼女の姿はあどけない表情でただ眠り続ける。市丸はゆうりの長い髪を1度撫でて再度、身体を寄り添わせた。
「おやすみ、ゆうり。」
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