第6章 死神編【駐在任務編】
先程とは逆の片耳へ髪の毛を掛けると伏し目がちに彼の喉元へ顔を埋める。一連の所作がやけに色っぽく見えて平子は飄々とした言葉や笑みとは裏腹に心臓は普段より早鐘を打ち情欲が煽られた。隻手を自分の上に跨るゆうりの華奢な背へ回しゆったりと撫で下ろす。
「…余裕ね。」
「大人やろ。」
「手加減しないよ。」
静かな呼気が肌に触れ、間も無く彼女の唇が触れようとしたその瞬間けたたましく枕元で鳴動する無機質な機械にゆうりの動きが止まった。
「…白哉からかな。」
「はァァ?空気読め無さ過ぎるやろ!」
「はい、染谷です。」
出るんかい…!!
出かかった言葉は飲み込んだ。己の所在を明らかにする訳にはいかない。苦虫を噛み潰したような顔で伝令神機を睨むと不意にゆうりの表情が強ばる。
『もしもし、ゆうりか?』
「……あれ、ギン?なんで番号知ってるの?教えてないのに。」
『嫌やなぁ、キミの隊長さんから聞いただけやて。…ボクがゆうりの番号知ってたら何か困る事でもあるん?』
電話を掛けて来た相手の名をゆうりの口から聞くなり平子は眉をひそめた。徐に伝令神機に耳を寄せ彼との会話を強引に盗み聴く。
「別に良いけど…何かあったの?」
『いいや?長期駐在任務やのにボクになんも言わず行ってもうた冷たーいゆうりちゃんの声聞きとうなっただけやで。』
「急だったんだから仕方ないでしょ。後2年半だし直ぐ会えるよ。」
『淡白やなぁ。…まぁええわ。ゆうり。』
「何?」
『そっちであんま変な男と関わりなや。』
電話越しに聞こえた市丸の言葉に平子は顔を歪めた。
まるでこっちでオレがゆうりに関わっとる事を知ってるかのような口振りやんけ。…まさかと思うが、ゆうり自身アイツに何か喋ったりしとらんよな?
チラリと彼女の表情を伺うと特に困惑する事も無ければバツが悪そうな素振りも見せない。何より市丸との会話を聞かれていても嫌がる様子すら無かった。という事は、彼女にとっては聞かれて困る事が無いという事だろうか。
様々な思考が駆け巡る。
「え?何言ってるの、現世の男とどうなろうとも思ってないよ。大丈夫。」
『…せやったらええで。ほなまた連絡するわ。』
「うん、じゃあね。」