第6章 死神編【駐在任務編】
「なにこれ…何…?」
ぺたぺたと触って確認すると柔らかく短めの髪に触れた。顔を寄せて目を凝らせば暗がりに少しずつ目が慣れて来る。平子だ。泥酔していたせいか1つ部屋を間違えたらしい。
既に夢の中へ深く寝入っているのか揺すっても全く起きない。
「真子、せめて奥まで詰めて。」
「んん…ゆうり…?」
強引に壁際まで押し込むと彼の目がうっすらと開いた。意識が朦朧としているのか焦点が定まっていない。ゆうりが隣へ身を伏せると平子の片腕が腰へ回され抱き締められる。
「なんや、オレと寝たいんか。可愛ええなァ〜。」
「真子が部屋間違えてるだけだよ。起きたなら戻って。」
「そないつれん事言うなや。あー…いい匂いする。」
「シャワー浴びたから……ちょっと、擽ったい。」
もぞもぞと布団の中で動いた彼は寝惚けているのか瞼を降ろしたままゆうりの喉元へ頭を埋めた。肌に触れる吐息がむず痒い。
「美味そう。」
「美味くないし、離れて。それかさっさと寝て。」
「いただきまーす。」
「は……え、い…いった!!痛い痛い!」
薄く開いた唇が鎖骨より少し高い喉に充てられたかと思えば、不意に歯牙が皮膚にグッと食い込む痛みに、ゆうりは目を見開き彼の背中をばしばしと叩いた。ギリ、っと一瞬力が込められ刹那的な強い痛みに足先を丸める。
「…ふは、痛いん?クッキリ残ったわ、オレの歯型。オレのって印。消えたらまた付けさせてや。」
「嫌に決まってるでしょ!このサディスト…!」
噛んだ箇所に指を伝わせ歯型がしっかりと残ったのを確認するなり彼は満足そうに口角を歪めた。すぐ様抗議の声を上げたが、それきり平子は糸が切れたように再び寝息を立て始めている。1人寝遅れたゆうりは自分の隣で呑気に寝こける男にひくりと頬を引き攣らせた。
「……本当、読めないというか…マイペース過ぎ…。」
市丸とはまた違った、独特なペースに振り回される己に溜息を吐いたゆうりは呆れながらも迫る睡魔に身を委ねた。
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