第2章 過去編
「阿近が眠いって言ってました。」
「言ってねぇよ。」
「あぁ…そういえば、睡眠をろくに取らせてなかったネ。寝ていいヨ。」
「えっ。」
「今日暖かくてお昼寝日和だよ。」
「いや俺は別に…。」
「縁側行こうー!」
「あー…わかった、わかったから。」
彼の手を取りゆうりと2人十二番隊隊舎の縁側へと向かった。暖かな陽射しが差し込むそこはポカポカと気持ちがいい。
彼女はそこに座り、阿近も隣へ腰掛けた。
「お前意外と強引だな。」
「阿近は弟みたいで可愛いから。つい面倒見たくなっちゃうの。」
「弟ね…。」
彼は小さな溜息を吐き出した。その理由が彼女には分からなかったが、どうしたのか聞くよりも先に隣に座っていた阿近が寝転がりゆうりの膝に頭を乗せる。
「無理矢理連れて来たんだから、これ位いいだろ。」
「いいよ。おやすみ阿近。」
「おやすみ。」
瞼を降ろした彼の黒髪を指先で梳くように撫でる。余程眠かったのか、程なくして静かな寝息が聞こえてきた。眠っている時は、年相応に見えて可愛らしく思える。
それにしても手持無沙汰になってしまった。本でも持ってくれば良かった。
「静かだなぁ…。」
ただぼんやりと空を見上げる。結局、夢に見た彼は誰だったのだろう。そして起きたら身体の周りにあった花は何だったのか…。図書館で探せば分かるのかな。
今朝方の事に思考を巡らせていると、ひょっこり何者かが顔を覗かせた。
「ギン!」
「全然会いに来んからボクから来てしもたやん。何難し顔してはるの?」
「ううん、なんでもないよ。ちょっと考え事してただけ。ギンは仕事終わったの?」
「休憩や休憩。」
市丸は彼女の隣に座り片手に持っていた紙袋から何かを取り出した。それをひとつ、ゆうりに差し出す。初めて見る白っぽい中に暗い橙色を覗かせる塊に彼女は瞬きを繰り返した。
「何これ?」
「干し柿。好きなんよ、これ。おすそ分け。」
「わぁ、ありがとう!」
渡されたソレを受け取り控えめに1口齧った。果実特有の独特な自然の甘さが口の中に広がる。その姿を市丸は相も変わらず感情の読み難い貼り付けたような笑顔で見つめる。