第6章 死神編【駐在任務編】
「それは出来ないよ。死神の仕事嫌いじゃないし…今は大切な友達も上司も部下も沢山居る。皆を裏切る様な真似は絶対したくない。」
首を横に振ったゆうりは真っ直ぐな瞳で平子を見詰め応えた。視軸が絡んだ彼は少し驚く。気弱に見えた彼女は顔を合わせなかった期間で死神らしく、それでいてしっかりと芯の通った人間に成長をしていた。守られる方が似合っていた筈なのに、今はもうそんな様子は全く無い。
「……やっぱえぇ女に成長したな。ゆうりの素直なとこ、真っ直ぐな所オレ好きやねん。」
「きゅ、急にそんな事言わないで……っ、ん。」
不意に彼が身を乗り出し顔が近付いたかと思えば唇に熱いものが触れた。近過ぎて焦点の合わない目で彼の伏せられた瞼を見詰める。ゆうりが口付けられた事を認識すると同時に直ぐ離れるが、彼女はぽかんと唇を開いて固まる。
「な…なっ……!!」
「ちんまい頃はこんな事出来へんかったけど、今は遠慮せんで。本気でオレのモンにするつもりでオマエに接するからよろしゅう。」
悪戯っ子のような笑顔で宣言する彼にゆうりは顔を朱に染め己の唇にそっと触れた。別に口付けが初めてという訳ではないが、周りの男と違い包み隠さず行動と言葉の両方で好意を伝えて来る平子はゆうりにとって些か新鮮で、受け流しにくく胸の内がこそばゆい。
赤くなった顔を隠すように彼の肩へ額を押し付けると、髪型を崩さないように気を使ってか優しく頭をぽんぽんと撫でた。
「……真子のそういう所狡いというか、苦手。」
「ゆうりは触られたりするより言葉の方が照れるっちゅーのが今日よう分かったわ。」
それからすぐ、ひゅるるる、と花火が空に向かっていく音が聞こえた。2人が顔を上げると大きな爆発音と共に赤い光の花が暗い夜空を彩る。辺りからも、わっと歓声が上がった。
「わっ、始まった!」
「おーおー、派手やなァ。」
「綺麗…。」
パチパチと音を立てて散っていく。初めの一発を引き金にどんどん花火が打ち上げられる。赤、青、黄色、緑。色の混ざったものや動物の形をしたもの、垂れていくもの沢山の花火が空を飾る。