第6章 死神編【駐在任務編】
扉を開けた矢胴丸は大きな紙袋を持っていた。それが何なのか分からず、ベッドの上で身体を起こしてから彼女に近付き紙袋を覗き込む。中には白地に赤紫色で菊や金魚、薄い水色で細かな花々や金の刺繍が施された上品な浴衣が入っている。
「わぁ、可愛い…。」
「着付けしに来たんや。一人でやるん難しいやろ。」
「確かに、着方わからないや。」
「せやろ、はよ脱ぎ!髪もそんままじゃつまらんわ!」
矢胴丸に急かされ今着ている服を脱ぎ下着姿になると早速浴衣に袖を通した。矢胴丸は戸惑う様子も無くテキパキと迷いの無い動きでゆうりへ着せて行く。
「リサさん、浴衣の着付けなんでどこで習ったの?」
「本でたまたま読んだだけや。覚えてたから良かったけど、あたしが知らなかったらどうやって着せる気やったんやろな真子は。」
「た、たしかに。」
ワインレッドの色をした帯で彩り、背中でしっかりとした形の綺麗なリボンを作る。浴衣の着付けを終えると今度はゆうりを椅子へと強引に座らせた。
「髪も結いたる。じっとしやぁ。」
「凄い、器用!」
両サイドの髪を取り捻りながら後頭部でゴムで結び、毛先と残り髪を三つ編みにすると毛先から外側に丸めていき両側をピンで止める。軽く解し整えてから最後に丸いガラス玉の付いた簪を刺した。髪を結い終えると矢胴丸は手鏡をゆうりへ渡す。
「普段隠しとるうなじが見えるってのがええな。」
「夏っぽい…ありがとうリサさん!」
「おもろい土産話待っとるで。あ、袋ん中に下駄とカゴバッグ入っとったから持ってき。」
「何から何まで借りて来てくれたんだね…。」
袋の中から取り出されたバッグと下駄を受け取る。かごバッグに財布と念の為伝令神機、ハンカチを入れてから玄関へ向かった。黒い下駄を履いて家を出る。外は既に暗くなっており、玄関先の表札前では既に灰色の浴衣を着た平子が立っていた。
「お待たせ。」
「おう、仕事おつかれ……えぇやん浴衣!!髪型も似合うとるで!」
「リサさんが全部やってくれたの。真子も浴衣選んでくれてありがとう。」
彼女の姿を見るや否や平子は目を見開かせた。元々彼女に似合う着物を選んだつもりだが、予想以上に可愛らしい。何より普段より色気が有る。なんの誤魔化しも無くストレートに褒められたゆうりは少しだけ照れ臭そうに笑う。