第6章 死神編【駐在任務編】
虚は更に上空へ飛び上がり一度距離を取った。ゆうりはそんな虚を無表情のまま視線で追う。目は逸らさぬまま、腰へ差した斬魄刀に手を掛けゆっくりと抜く。
「……魅染めろ。"胡蝶蘭"。」
ふわりと刀身が散った。花弁となったソレは新しい形を為す。ゆうりの身長よりも長い刀になったそれを軽く振り下ろすと威圧的な霊圧が虚へ向いたが、余裕の表情で笑う。
「ハッ、そんなバカでかい刀で捉えられると思うなよ。俺の能力の真骨頂は凍結じゃねェ…スピードだ!」
虚は鋭く尖った爪を構えまるで弾丸の様なスピードでゆうりに迫る。彼女はそんな化け物に肩を竦めると虚の爪が己を貫く直前に瞬歩を使い背後へ回った。
「ア!?どこ行きやがった…!」
「貴方の誇るスピードは死神には通用しないわ。さようなら。」
彼女が振るった斬魄刀が容赦無く虚を真っ二つに割いた。仮面ごと割れた化け物はそのまま昇華していく。呆気なく戦闘は終わったが、仕事はこれで終わりという訳では無い。ゆうりは始解を解くと、尻餅をついたまま呆気に取られている青年を見下ろし目の前へ迫った。
「ひぃ!こ…殺さないで…!」
「殺すもなにも君はもう死んでるよ。」
「あ、そうか…。じゃあ斬らないで下さい…!」
「斬らないよ。けど君をこのまま現世に留まらせてしまうと今襲ってきた化け物になっちゃうの。だから成仏してね。」
「え、ちょっと待……。」
青年が何かを言う前にゆうりは柄を彼の額へポンと打った。男は静かに消えていく。斬魄刀を鞘へ戻した彼女の伝令神機が再び鳴り響いた。位置を確認し、街を翔ける。
「これじゃ休む暇もないよ〜…。」
唇をへの字に曲げ泣く泣く走っていたゆうりは直ぐに次の目的地へ到着した。…が、辺りに虚は見当たらない。争った痕跡も勿論ない。伝令神機を取り出し見てみると既に虚の反応が消えている。
「んん…?虚圏へ帰った…?」
「もしもォ〜し。そこのオジョーサン、今暇ですかァ?」
「私も帰ろっと。」
顎に手を添えて首を捻る。居ないのなら仕方ない。元来た道を戻ろうと踵を返し歩き始めた刹那、背後から声を掛けられた…ような気がして足を止めた。しかしそもそもここは尸魂界では無く現世だ。生者が義骸を脱いだ自分を見ることは無いし声が掛かるわけも無い。そう思い無視して再び歩みを進める。