第2章 過去編
「有りません…この花、なんて名前なんだろう……。」
ゆうりは小さな花を摘んだ。蝶の羽根のように開いた花弁は小さく、愛らしい。汚れを知らない真っ白な花びら。鼻先に寄せると、先程の夢の中と同じ匂いがした。
「ボクが調べておきましょうか?現世で咲いてる花かもしれませんね。」
「……ううん、大丈夫。自分で調べます。なんとなく、そうしないといけない気がするんです。ありがとう、浦原さん。」
「そうっスか、それならこの件に関してボクは手を出しません!……それよりゆうりサン、ちょっと目を閉じて下さい。」
「え?はい。」
浦原に対して何の疑いも持たないゆうりは言われた通りに目を閉じる。何も見えない状況に緊張からか自分の心臓の音がよく聞こえた。何も出来ないまま固まっていると不意に耳元に何かが宛てがわれる。そして…
バチンッ
「ッ…!!」
何かを弾くような音に驚き彼女の肩が跳ねる。つい目を開けて何が起こったのかと片耳へ手を添えた。触ってみれば、耳朶に何か違和感がある。コロコロとした何かが付いていた。
「な、何…?何これ…?」
「現世で言うピアス、ってやつっス。ボクとお揃い。」
そう言って浦原はゆうりとは逆の耳に付いたソレを見せた。小さな蒼い石の埋められたピアスは彼の耳元でキラキラと輝いている。それが今、己の耳にも付けられたらしい。
「なんか貫通してるんですけど。」
「そりゃあ針ですから!手入れはボクがやってあげるから大丈夫。半年くらいすれば外す事も出来ますよ。」
「いや、大丈夫じゃなくて何故いきなりこんな事を…!?びっくりしたじゃないですか!」
「それはー…まぁ、アレです。」
浦原は曖昧に笑って頬を指先で掻いた。かと思えば、徐に彼の手がゆうりの手首を掴みやんわりと引き寄せられ、小さな身体はすっぽりと胸板に収まる。そのまま抱き締められ、伝わる体温が心地好く感じた。
「ゆうりサン、どこ行ってもモテモテですからねぇ。ボクの可愛い娘です、って印。」
「えぇ〜…浦原さんって意外と変なことしますね。」
「変!?」
「こんな事しなくても私が1番信頼してて大好きなのは浦原さんだけですよ。」
「…まだ子供だから良いですけど、大人になったら魔性の女になりそうっスね。」
「夜一さんみたいに魅力的になれますかね?」