第2章 過去編
何も無い、雪が降り注いだかの様な真っ白な世界。音もない、匂いもない、風もない、まるで虚無そのものに思える場所。
「ここ何処…?」
昨日は確か、浦原さんの部屋で寝た筈なのに。夢の中にしては気持ちが悪いくらい意識がハッキリしてる。
急に不安が湧き上がって来た。皆は何処?何で私は1人なの?…独りは嫌。寂しい。
「誰か……ー!」
自分の体躯を抱き締め蹲る。すると呼び掛けに対する応えなのか、強い風が背中から吹き付けられた。その風に乗って白い花弁が舞い、甘い香りが鼻を擽る。
『怖がらないで…。』
「…声、が……。」
見渡しても誰も居無い。しかし声が聞こえる。低過ぎず、高過ぎない優しい男の人の声。全身を包み込む様な暖かな気配。
『僕の名前を呼んで、ゆうり。気付いて、僕の存在に。』
「どこにいるの?見えないよ……。」
『いつも君の傍に居るよ。僕の大切なゆうり。』
「貴方は誰?名前を教えて。」
『僕の名前は…ーーー。』
名前を紡がれた時だけ、酷いノイズがかかっているようで聞き取る事が出来なかった。なんだろう、この感覚は。心臓が早鐘を打つ。知りたい、彼の名前を。見つけたい、彼の姿を。
「聞こえないよ…!」
『大丈夫、急がなくていい。きっとまた直ぐに逢える。その時を、僕は楽しみにしているよ。』
その声と共に真っ白な世界は消えてしまった。混濁する意識の中今度は遠くから、己の名前を呼ぶ声が聞こえる。
「ゆうりサン、起きて下さい!ゆうりサーン!」
聞き覚えがある声だ。少しだけ、焦っている…?
強制的に意識を引き戻されゆうりは目を覚ました。やはり眠っていたらしい。それならばさっきのは夢だったのだろうか。それにしてはハッキリと匂いも鼻に残ってる気がする。目が合った浦原さんが何処か驚いた顔で私を覗き込んでいた。
「泣いてたんスか…?それにこれ、一体どこから…。」
「え、泣いて……うわっ、何これ!」
ゆうりが布団に手を着くと、身体の周りには見たことが無い白い花が沢山落ちていた。片手を頬に手を添えてみると確かにちょっと濡れてる。
「魘されてるし、霊圧は高まるしびっくりしたんスよ〜。何か悪い夢でも見ましたか?」
「…いえ、良く覚えてないんです。怖い夢、だったのかな……。」
「この花は?覚えは有りますか?」