第5章 死神編【中編】
ゆうりの言うやりたい事、は間違いなく居なくなった副隊長以上の隊士を見つける事だろう。ならばさっさと現世へ逃げた事を伝えてしまえばいい事なのだが。総隊長命令が有る以上のそうもいかない。となると取れる方法は…虚を使役し、誘導する事。
「…そろそろ動こか。」
他の誰の為でもない、ただゆうりの為。そして己自身の欲望の為。ちゃぁんとボクは言うたやろ、手段は選ばんて。
もっとボクの手の中で踊ってや。泣く所も喜ぶ所も全部ボクにだけ見せてや。どんな姿も全部愛したる。
今後の事に思考を巡らせほくそ笑んだその時、後ろからひょっこりゆうりが顔を覗き込ませた。
「ただいま。こんな所にいたら湯冷めするよ。」
「思った以上にダボダボやな。」
「当たり前でしょ、男物の着物なんだもん。」
市丸は顎に手を添え上から下へ彼女を見詰める。風呂上がりの頬はほんのり血色が良く、乾かしたといえど少し湿った髪。サイズが合わず普段より胸元がさらけ出され、手は袖に完全に隠れている。そしてその着物は正に己のものだ。
「そそるわ。」
「明日仕事だってば!寝よ?」
「しゃあないなぁ…ならせめて一緒に寝よや。」
市丸は弛緩な動きで立ち上がり布団を一組敷いた。先に入ると端へ寄り空いたスペースをポンポンと叩く。ゆうりは若干狼狽えたが、ごねたところでこの男がこれ以上折れるとは思えず仕方なく彼の隣へと身を伏せた。
向かい合う形で寝転ぶと市丸の腕が差し出され、隻手が腰へ回される。
「枕はココや、ココ。」
「絶対痺れるよ?」
「隊長やでボク。」
細い二の腕へおずおずと頭を乗せる。自然と距離が迫り端正な顔が間近になると少しだけ心臓が高鳴った。ゆうりはそれが不思議で己の心臓に手を置く。
「…どないしたん?」
「…や、なんでもないよ。」