第5章 死神編【中編】
愉快そうにケラケラと笑う市丸にゆうりは困惑の色を強めた眼差しを向けた。普通ならばそんな女に好意を寄せる事は無くなるだろうに。彼はそれでもただ愉しそうにするのだ。
「本当ギンって変わってる…。誰とでもキスしちゃうんだよ?」
「ええよ。その内ボク以外とするん嫌にさせたるわ。」
「え…?」
「ゆうりみたいに男を無意識に期待させて、翻弄して弄ぶ…せやなぁ、小悪魔言うんやろか。手に入りにくい女程燃えるもんやよ、男は。」
「…それは厄介な事ね…。」
ここまで言っても引き下がらないとは。市丸は何故か上機嫌気味に風呂へと向かってしまった。残されたゆうりは市丸の部屋の布団で膝を抱え天井を見上げた。
多分、普通は恋人でない相手に抱き締められたり口付けられたりすれば多少なりとも不快感が有るのだろうが、それを感じることが無い。勿論困惑する事は有るが…。拒絶をして、嫌われてしまった時のことを考えると嫌と言えない。情けないとは思う。けど受け入れて困る様な事が特に無い。
「……もしかして私貞操観念低すぎ…?」
今まで読んだ恋愛小説では、好きな人以外と身体重ねたりだとかはあんまり無かった気がする。いやでも寝取りとかそんな内容もあったな…。
うんうんと唸り悩んでいた所、市丸が戻って来た。寝巻きに着替えた彼は手にもう1着着物を持っている。
「何唸っとるん?これ、ボクのやから大きいかもしらんけど上手く調整してや。」
「あ…うん、ありがとう。」
受け取った着物と買ったばかりの肌着を手に風呂へ向かった。市丸はゆうりの後ろ姿を少し見詰めた後縁側へ歩み寄り腰掛けた。今日の空はよく晴れていて月がやけに眩しく見える。
「誰彼受け入れる事で嫌われるとは思わんのか、ゆうりは。」
まぁ、拒絶されるより素直に触れさせてくれる方がボクとしては嬉しいけどなぁ。けれどボク以外の男にも同様かと思うとおもろない。ボクだけに触れられて、ボクにしか見せない顔を見せて欲しい。誰にでも触れさせるって事はそれ程色んな男の嫉妬心を煽っとるって事や。
「早うボクだけのモンになればええのに。」