第5章 死神編【中編】
「耳まで赤いわぁ。今、何思い出しとるん?」
「っ…な、なんでもない!」
「本当に?ここで前ボクと何したか思い出させたろか。」
ふわっと彼の細い腕が腹に回され後ろから抱き締められる。ゆうりは腕の中で身体が小さく跳ねるものの両腕を掴み剥がそうと試みた。しかしビクともしない。
「わ、っ……ちょっと、話すだけでしょ!」
「男の部屋上がって話すだけで終わると思うとるん?」
「無理矢理連れてきた癖に何言ってるのよ、馬鹿。」
「あいたっ。」
くるりと上体を捻り顔を突き合わせてから指先で輪を作り市丸の額を指で弾いた。彼は不満そうな顔で額をさする。
「そんなに嫌がらんでええやん…。」
「私明日も仕事なの。明日起きられなくなったら大変でしょ。早くお風呂入って来て。」
「…仕事やない日に誘ったらノるん?」
「そっ……そうじゃない!」
市丸が何も答えず沈黙するとゆうりは訝しげに彼を見詰めた。…が、相変わらず表情から何かを読み取るのは難しい。声を掛けようと唇を開いた刹那、再び彼の腕が伸びてきた。今度は正面から抱き締められ腰と後頭部へ手を添えられる。
「…例えば、ボク以外の男……阿近が同じように迫って来たらキミどうするの。」
「阿近が…?……多分、拒まないと思う。」
「なんでなん?」
「ギンと同じだよ。嫌いじゃない相手は拒めない。」
「キッパリ断るのも優しさやよ。」
「だって、私に愛してる人は居ないんだもの。明確に断る理由は無いじゃない。手を繋いでも、抱き締められても、口付けられても、それはただ好意を向けられてるだけであって告白とは違うし。そうでしょ?」
「……えらいやり手になってもうたなぁ。」
「私、皆が思ってる程純粋ではないの。愛されてる、って実感をくれる人皆好き。触れ合う事で好意は伝わって来る。それに…嫌われたくない。だから拒まないし、したい事はなんでもするよ。……好きな人が出来たらまた変わるかもしれないけどね。今は恋よりもやりたい事が沢山あってそこまで気が回らないわ。」
「…ふは、ええな。したたかで。キミの汚い所初めて見たわ。」
「嫌いになった?」
「逆や。もっと欲しなった。」