第5章 死神編【中編】
彼の手がゆうりの手を取りさも当然のように指を絡められた。全く聞く耳を持たず抗議の声も届かない事にゆうりは困ったように眉を下げ溜息をついたが、結局断り切れず市丸の後をついて行く。
「ねぇ、ギンは現世の駐在任務ってどの位行ったの?」
「懐かしいなぁ。ボクは1ヶ月やよ。まさか行くことになったん?」
「まだだけど、基本的に1回は必ず行くんでしょ?私もそろそろ言われてもおかしくないかなって思って。」
「えー、ゆうりが行くんならボクも着いてったるわ。」
「隊長のギンが1ヶ月も不在に出来ないでしょ…。」
「冗談や、分こうとるよ。それでも1ヶ月以上顔見れんのは寂しいなぁ。なんとか断ってや。」
「いや断れるわけないよ。それに普段は義骸で生活出来るんでしょ?現世の美味しいご飯とか、綺麗なアクセサリーとか沢山見れる!」
「もう十分付けとるやん、コレとか。」
「あ……。」
立ち止まった市丸の手がゆうりの左手へ伸びた。手首を掴み持ち上げられると袖口から覗く指輪に彼はうっすら瞼を持ち上げる。隠していたはずのそれが既にバレていた事にゆうりは気まずい気持ちで視線を逸らす。
「いやあ、ええ指輪や。女の子ならみィんな喜ぶやろなぁ。で、なんで顔逸らすの?」
「い、いや……怒るだろうな、って思って。」
「ボクが?この霊圧制御装置に?」
「…うん。」
「アタリや。」
にっこりと笑みを浮かべた市丸は左手の薬指を飾るリングへ歯を立てた。何が腹立つて、ただのアクセサリーと違いこれはゆうりの霊圧を抑えるための装備品である事や。外して壊してしまおうにもそういう訳にはいかん。…仮に壊したとしてもゆうりが怒るし嫌がるやろなぁ。どうせ、阿近の仕業やろ。
「ま、ええわ。家でゆっくり話そや。」
「うぅ…家に帰りたいんだけど…。」
話した所でもう怒ってるじゃない…。そう思うと彼の家に行くのは気が引けたがズルズルと引きずられ、近場で肌着だけ購入してからいよいよ着いてしまった。ここに来たのは、以前介抱されて以来だ。彼の部屋まで来ると何処か懐かしく、同時にふつふつと記憶が甦りゆうりは顔を俯かせ頬を朱色に染めた。そんな彼女を察して市丸は楽しそうに顔を覗き込ませる。