第5章 死神編【中編】
「アンタじゃなくてゆうり。」
「…別に分かればいいだろ、名前じゃなくても。」
「嫌だよ!それに死神になったら上官をアンタなんて呼んだら怒られるよ。」
「…俺はまだ学生だ。」
「屁理屈言わない!ほら、呼んで。」
顔を寄せ詰め寄るゆうりに日番谷は一歩たじろぐ。面と向かって急に名前を呼べと言われても、その方が呼び辛いし照れ臭い。
「よ…用がある時に呼ぶ。」
「約束だよ?アンタって言っても反応しないからね。」
「餓鬼じゃねーか…。」
昔、平子にされた事と似たような事をしたら彼は当時の自分の様なことを言う。それが何処か可笑しく、親近感が湧きゆうりは静かに笑った。
「何笑ってんだよ。」
「ふふ…いや、私と冬獅郎って似てるなぁって思って。髪の色もそうだし、目の色も同じでしょ?それに、今の反応昔の私にそっくりだなぁって。」
「似てねぇ。俺はアンタ……ゆうりみたいに人懐っこくねェし、人付き合いも苦手だ。」
「私も冬獅郎と同じくらいの時はそうだったよ。他人が怖くて、甘えるのも苦手で友達全然居なかったなぁ。死んでから、色んな人と関わって、刺激を受ける内に少しずつ変わったの。きっと冬獅郎もそうなれるよ。」
ゆうりは穏やかな笑みを見せて彼の頭を撫でた。優しい手付きと柔らかな笑顔に日番谷は顔に熱が集中するのを自覚したが、その手を振り払う事が出来なかった。嫌では無い。寧ろ今まで居なかった理解者に近い存在に困惑したのだ。
「……俺は、別に…。」
「私は冬獅郎の事好きだよ、素直じゃない所も。」
「な…ッ!」
彼女の言葉に日番谷は更に動揺の色を強め言葉を詰めた。好きだ、なんて言葉男へ簡単に言いやがって…。そんな感情が湧き上がる。彼女は日番谷の動揺を知ってか知らずか木から飛び降りた。そして口元に手を添え声を掛ける。
「そろそろ仕事戻るよ。一緒に仕事出来るの楽しみにしてるから!」
勢いよく手を振ってから去っていくゆうりの背中を見送った日番谷は木へ預けていた身体がずるりと落ちた。彼女の言葉を頭の中で反芻すると言い表し難い感情に襲われ心臓付近の服を握る。
「…クソ、落ち着かねぇ。」
いつもより早く、大きく響く心臓の音を整えようと深く深呼吸を繰り返す。この感情の名前を彼が知るのはまだまだ先の話であった。
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