第5章 死神編【中編】
「それでもゆうりが強いのは噂でも聞くし、どうしても守られるっつー立場じゃなくて守る立場にはなると思う。戦いの中は常に選択の連続だ。一旦引くか、戦いを続けるか、誰かを庇うか…正解は常に分からないし俺だって後悔する事も有る。けど、どんな結果で任務が終わっても腐るなよ。上が迷ったまま任務に付けば下も迷う。」
「…海燕さん、人を揶揄うだけじゃなくて副隊長らしい事も言えたんですね…。」
「おい、テメェ人が折角上官の在り方を教えてやってんだぞ。御教授頂きありがとうございました、だろうが。」
「いたたた!ごめんなさい!!」
唇をへの字に曲げた彼に頭を掴まれギリギリと力を込められる。ゆうりは眦に涙を浮かべその手を叩いた。
解放されると己の頭を摩りながら彼女は嬉しそうにへらりと笑う。これ程ズケズケとものを言ってくれる人は身近に余りいない。だからこそ新鮮で、居心地良く感じる。
「海燕さんって本当に素敵な副隊長ですね。尊敬してます。」
「おう、ありがとな。」
それから他愛ない雑談に戻りつつ、それぞれの甘味に舌鼓を打った。お互い食べ終わった後、スプーンを置いたゆうりは彼を見るなり机に片手を着いて軽く身を乗り出した。
「動かないで下さいね。」
「ゆうり?」
スっと伸びてきた手に彼は固まった。細く柔らかい指先が口角へ触れ何かを拭う。椅子へストンと座り直した彼女は指に着いたそれを舐め取った。その仕草がやけに扇情的で思わず生唾を飲み下す。
「黒蜜ついてましたよ。」
「…お前なぁ。」
「子供じゃなくて、女として意識しました?」
悪戯っ子の様に不敵な笑みを浮かべたゆうりに海燕はひくりと頬を引き攣らせる。不覚にも赤くなった顔を見せまいと椅子から立ち上がった彼はそのまま会計へと向かった。彼女も後から彼の横に並ぶ。
「まだ根に持ってたのかよ。」
「そりゃそうですよ!それより、ご馳走様でした。」
約束通り支払いを彼に任せ甘味処を出る。ゆうりは大きく伸びをすると近くに知っている霊圧を感じた。森の方だ。
「海燕さん、私ちょっと寄り道してから戻ります。今日はありがとうございました。また是非ご飯行きましょう!」
「寄り道ぃ?俺は良いけどあんま遅くなってやるなよ。次は酒でも飲もうぜ。」