第5章 死神編【中編】
「…阿近?」
「…お前は俺の事弟みてェに思ってたんだろうが、俺はゆうりの事はずっと女として見てた。」
耳元に寄せられた唇が静かに囁く。当たる吐息がこそばゆく小さく肩が跳ねた。ゆうりは予想もしなかった彼のカミングアウトにぶわっと顔に熱が集中し、返す言葉に困り視線を逡巡させる。
「あ…あの……。」
「……ふ…。」
真剣に頭を悩ませてる最中頭上から空気が抜けるような笑い声が聞こえた。顔を上げると彼はゆるく握った拳を口元に宛てて肩を震わせている。
「はは、いや…冗談だよ。本当お前弄りがいがあるよな。」
「ひっ、酷い!」
彼の掌が頭に乗せられポンポンと軽く叩いた。本心なのか本当にからかっているだけなのか分からずゆうりは唇をへの字に曲げる。阿近は腰から腕を離すと新しい煙草に火を付け指輪を指さした。
「その指輪は薬指にしかサイズ合わねェからな。間違っても他の指に付けようとするなよ。」
「わかったよ…お代はいくら?」
「要らねぇよ、昔のよしみってことで。その代わり他の野郎共がソレ見てどんな反応したか教えてくれ。」
「阿近、随分性格ひん曲がって成長したわね…。」
「そりゃどうも。」
「褒めてないよ…。でも作ってくれてありがとう。このパーツ、十二番隊の色だよね。…大事にする。」
「…あぁ、壊すなよ。」
薬指を飾る指輪を撫でた。己の新しい人生が始まったこの場所の色を大切にしたい。多分、彼は気を利かせてくれてこの色を選んでくれたのだと思う。それがとても嬉しかった。ゆうりは自然と頬を緩ませ上機嫌に阿近と涅へ別れを告げ隊舎を出る。
そのままの足で向かった先は呉服屋だった。様々な色や柄をした着物をひとつずつ見ていく。
「うーん、どれがいいかな…。」
渡そうと思っている人物を想像し頭の中で着物を着ている姿を浮かべてみる。確か彼の斬魄刀は、桜だった気がする。何か桜文で良いものは無いだろうか…。
「あ、これ綺麗。」
手に取ったのは肩口が薄桃色をしておりそこからグラデーションが掛かるように下へ向かうごとに黒く染まった、桜を散りばめられた羽織だ。少し女性物のようにも見えるが、男性にしては艶が有り顔が綺麗な白哉ならきっと似合うだろう。
「すみません、これ頂けますか?」