第5章 死神編【中編】
Another side
今日は空座町で祭りが開催されていた。人の集まりが多いせいか、どうやら虚の出現も多いようで尸魂界から死神が派遣されているのが分かった。何か特別気になった訳では無い。何となく、どんな死神が来ているのか一目見てみようという軽い気持ちで虚の霊圧を感じる場所へと向かった。
「まさか…あれは……。」
悲鳴を上げて昇華していく虚。その奥に見えた銀色の髪に見覚えがあった。屋根の上から見ていた四楓院は大きな瞳を見開く。彼女は斬魄刀を鞘に戻し、胸元を見詰めている。四楓院は屋根から家の塀を伝い地面へ降りた。そしてゆっくりと彼女へ歩み寄る。
「綺麗な猫ね。飼い猫かな?」
あぁ、やっぱりゆうりじゃった。最後に見た時よりも随分大きくなった。それに…そうか、死神になったのか。
勿論彼女が黒猫の正体を知るわけが無い。四楓院は鳴かず、喋らずただ彼女を見詰め続けた。彼女もまた、黒猫である四楓院を見詰め返す。
声を掛けるか迷った。けれどここで正体を明かし、浦原の所在を伝えても良いのだろうか。そもそも浦原がそれを望まないかもしれない。四楓院は1度瞳をスっと細め、結局何も語る事は無くその場を去った。
「おかえりなさーい、夜一サン。お散歩はどうでしたか?ミルク飲みます?」
足を運んだのは浦原商店だった。店先に立っていた浦原は帰ってきた四楓院の両脇に手を差し込みヘラヘラと笑いながら彼女を抱き上げる。視線の高さを合わせたままぶら下げられた四楓院は無表情のまま彼の目を見詰める。
「喜助…ゆうりに会ったぞ。」
「……え。」
浦原の手から力が抜けた。するりと身体が重力に従い落ちていった四楓院は綺麗に着地して見せ、固まる浦原と再び目線の高さを合わせる為塀へ飛び上がる。
「死神になっておった。お主も気付いておったのじゃろう。」
「……。」
浦原は何も言わず緑と白のシマシマ帽子を深く被り直す。彼女の言う通り、気付いていた。あまりに懐かしい霊圧を現世で感じたのだ。それが本物なのか、はたまた気の所為だったのか…判別が出来ずにいたが。
「…中で話しましょうか、夜一サン。」
「ミルクは出るんじゃろうな。」
「もちろんですよん。」