第5章 死神編【中編】
「分かったよ…。」
ゆうりは肩を落とすも渋々頷いた。仕方なく尸魂界へ戻るため1度祭りの会場から離れようと歩き始めたゆうりだったが、一緒について来ない檜佐木に振り返り首を傾げた。
「修兵?行かないの?」
「…あー…いや、行く。」
檜佐木は言葉を言いあぐねるように淀ませると遅れてゆうりの隣へと並ぶ。何か言いたげな彼をゆうりはじっと見詰めたが、彼は何も言わない。
「どうかしたの?修兵もまだお祭り楽しみたいとか?」
「いや、そうじゃなくて…。」
先程の市丸との光景が頭に蘇る。俺もあれくらい堂々と出来たら良いのに…羞恥が勝る。しかしそれ以上の悔しさも有るのが確かだ。あの男、俺がゆうりに好意があるのを知っててわざわざ見せ付けて来やがった。…クソ、思い出すとやっぱ腹立つ。
悶々とした気持ちを抱えた檜佐木は、緊張を振り払うように首を横に振った。そしてゆうりと肩を並べている方の手で、彼女の手を取る。
「…ま、またはぐれたら困るだろ。」
「あ……ふふ、そうね。ありがとう、修兵。」
ゆうりは彼の言葉にキョトンとしたが、迷うこと無くキュッと手を握り返した。彼の頬が少し赤く見えたのは多分気の所為では無いだろう。
「懐かしいね、昔拗ねた修兵と森に行った後もこうして手を繋いで帰ったっけ。」
「拗ねたって言うなよ…。今は俺だって九番隊の三席だ。あの時よりは強くなったぜ。もう虚相手にやられねぇよ。」
「私だって六番隊の四席だよ?負けないわ。」
二人きりで他愛ない会話を交わしながら煌びやかな屋台の列を抜ける。その先では市丸と松本が待っていた。手を繋ぎ戻って来た2人に市丸は普段と変わらない貼り付けた笑みを浮かべ、松本はニヤニヤと笑いながらゆうりと檜佐木を見比べる。
「あらぁ、遅かったじゃない。仲良く手なんて繋いで帰ってきちゃって。」
「やっぱボクも行けば良かったなぁ…。」
「こ、これはまたゆうりがはしゃいでどっか行かないように繋いでただけですよ!」