第5章 死神編【中編】
「…構わぬが、現世の金銭は持っているのか?」
「あ……。」
筆を書面へ淡々と滑らせる白哉の一声にゆうりの浮き立っていた気持ちは一気に萎んだ。この世界で使われる金銭は"環"であり"円"ではない。つまり義骸に入った所で生活するのは難しいのだ。
目に見て誰でも分かるほど落ち込むゆうりへ一瞥くれた白哉は短いため息を零す。そっと己の懐に手を伸ばし何かを漁ると机にポンと紙の束が置かれた。
「使え。これだけあれば足りるだろう。」
「え…えっ、いいの!?」
「二度言わせるな。その分明日はしっかりと働いて貰う。」
「…ありがとう、白哉!」
ゆうりは渡された十数枚程の札束を持って上機嫌に六番隊を出るなり、1人で祭りに行くのもどうかと思った彼女は仕事を終えていた松本を誘う。すると折角だから他にも、という事でゆうりの学友である檜佐木、そして松本の幼馴染である市丸の4人で義骸を使い現世へと赴いた。
「修兵髪切ったんだね、短い方が似合ってるよ。」
「そ、そうか…?ゆうりは髪下ろすようになったんだな。」
「何でボクまで行かなあかんのや…。」
「あらいいじゃない、どうせ暇してたんでしょ?」
檜佐木は過去の一件から市丸に対する苦手意識があったがそれでもゆうりの誘いは断われなかった。市丸はどうやら半ば無理矢理松本が連れ出したらしい。4人は提灯がぶら下げられた明るい夜道を歩き恐らく屋台が有るであろう場所へと向かう。
「それにしてもよくアンタの所の隊長お金出してくれたわねぇ。」
「白哉って本当に優しいんです。近いうちに絶対御礼しないと。」
「隊長さんが優しいのはゆうりにだけやと思うよ。」
「俺もそう思う。」
「そんな事ないよ!家の鯉も大事に育ててるって銀嶺さんが言ってた。」
「そういう事じゃないと思うわよ…おっ、見えて来たじゃない。あの辺ね!」
「わあ……お祭り来たの初めて!賑やかだね。」
チョコバナナ、焼きそば、イカ焼き等祭りならではの食べ物屋から射的、くじ引き、ヨーヨー釣り等遊べる物も沢山あった。子供の頃こんな華やかな場所に来た記憶は無い。ゆうりは目を輝かせ屋台のある場所へ走る。
「こら、迷子になるわよ!」
「まだまだ子供っぽい所も有るやん。」