第5章 死神編【中編】
「随分長い間来なかったじゃねぇか。」
「…うん、ごめん。中々決心つかなくて。」
「浦原さんか…。」
煙草を口から離し、上へ向けて煙を吐いた。話題を逸らそうと、ゆうりは尸魂界に来てから初めて見る煙草へ興味津々に手を伸ばす。
「こっちにも煙草って有るんだ。」
「現世で売ってるモンを買ってんだよ。」
「えぇ、わざわざ?美味しいの?」
「味知りてェの?」
阿近は含みのある笑みを見せると煙草を持つ手とは逆の手でゆうりの顎を掴んだ。そのままグイッと上へ向かせるなり有無を言わせる間もなく唇を重ねる。
「ん、ぇ…ちょっ…。」
抗議しようと開いた咥内へぬるりと舌が忍び込み舌腹を舐って直ぐに引き抜かれる。口の中に残る煙草の独特な苦味にゆうりは顔を顰め口を噤む。阿近はペロリと自分の唇を舌なめずりして再び煙草を燻らせた。
「ふはっ、口に合わなかったか?」
「苦いし不味い…よくそんなの吸えるわね…。」
ゆうりは俄に頬を朱に染め手の甲で唇を拭い小声で文句を垂れる。僅かでも照れる姿を見た阿近は満足そうに吸い終えた煙草の火を消した。
「んで、なんか用があって来たんだろ?」
「あ、うん。最近霊力のコントロールが上手くいかなくて。いつもと同じように抑えてるつもりなんだけど、思ってるより強く破道が出ちゃうからネックレス壊れちゃったのかと思って見てもらいたいの。」
「それお前が成長して抑え効かなくなっただけじゃねぇのか?壊れてるようには見えねぇぞ。」
「そうなのかな…。」
阿近は軽く身を屈め彼女の首を飾るネックレスを摘みマジマジと見つめた。しかし欠けている様子も無ければ当時と変わらずキラキラと輝いており特に不備も見当たらない。
「ソレとは別に作ってやる。」
「…更木隊長の眼帯みたいに禍々しいのは嫌よ?」
「アレと同じ機能で見た目も良けりゃ良いんだろ。任せろよ。」
そう言って阿近はニンマリと唇に弧を描かせた。何かを企んでいる様に感じたが、それを聞き出すよりも先に彼に左手を掴まれる。
「何?」
「いや、別に。」
阿近はそのままゆうりの左手を摩ったり指を握ったりと手遊びのように弄んだ。暫くして手を離すとクルリと背を向け隊舎奥へと戻っていく。
「一週間後取りに来い。それまでに作っておく。」