第5章 死神編【中編】
「よろしくね、冬獅郎。」
「勝手に…!…はぁ、もういい。」
「冬獅郎はここで何してたの?」
「…寝てただけだよ。ここは静かだからな。」
「そうだね、私も学生の時はよくここに来て鍛錬してたの。」
「なんでわざわざ今もこんな所で破道の練習してるんだよ。死神なら鍛錬できる場所位あるだろ。」
「そうなんだけど…最近上手くコントロール出来なくて。思ってたより強く出ちゃうから危なくて人がいないここに来たの。君が居たけどね。」
「ふーん…。」
それだけ言うと日番谷は握手を交わしていた手を離した。ゆうりは軽く身体を伸ばすと彼に向かって笑いかける。
「それじゃあ私行くから。またここで会ったら冬獅郎の話もっと聞かせてよ。」
「はぁ?なんでわざわざ…。」
「折角会えたんだから友達になりたいじゃない。いつかキミも私と同じ死神になるんだし、仲間になるんだよ?」
「友達…。」
あまり馴染みのない言葉だった。今までこの髪色のせいか、瞳のせいか…はたまた性格のせいか、友達なんてまともに居なかった。ただでさえ彼女に素っ気ない態度を取っているのに。わざわざ友達になりたいという理由が分からない。
友達という言葉に悶々とする中、ひょっこりとゆうりが顔を覗かせて来た。
「冬獅郎?」
「…なんだよ。」
「また会おうね。」
「気が向いたらな。」
素直じゃないな…。そう思っても口にしたら彼はきっと拗ねるだろう。ゆうりはそれ以上何も言わず、手を振ってその場を後にした。
向かった先は、十二番隊の隊舎だ。実は、死神になってからこの場所に来たことは1度もなかった。どうしても来るのが怖くて中々立ち寄る事が出来なかったのだ。
数十年前と全く変わらない扉。けれど、開いてしまえば全く体制の変わった姿が待っているのだろう。ゆうりは掌で扉を撫でゆっくりと開いた。
「…失礼します。」
中は相変わらず暗くおどろおどろしい。他の隊舎とは全く異なる雰囲気だ。
「ゆうりか?」
「…もしかして阿近?身長凄い伸びたね!抜かされちゃった。」
直ぐに顔を出したのは阿近だった。昔は殆ど身長が変わらなかった筈なのに、すっかり自分を追い越した彼に驚きの声を上げ口元を手で覆う。彼は煙草を咥えニヒルに笑いゆうりの頭をポンポンと撫でた。