第2章 過去編
「笑ってました。それはもう、嬉しそうに。」
無機質な声で紡がれた言葉に藍染は息を飲んだ。自分の娘が死にそうになっているというのに笑っていたとは…中々狂気じみた話だと思った。
「あまりに印象的だったから記憶に焼き付いちゃったんですかね。忘れられないんです、ずっと。」
「そこまで負の感情を抱いて居ながらよく虚にならずに済んだね。強い子だ。」
「……。」
藍染の大きな掌がポンと頭の上に乗せられた。ゆっくりと左右に動き優しく撫でられる。その優しさが本心から来るものなのかは分からなかったが痛く心に染み入る気がして彼女は俯いたままグッと下唇を噛んだ。誰の前であろうが簡単に涙を見せたくない。思春期特有とも取れる意地と羞恥心が邪魔をする。
「…死んでから優しい人達に出逢えて幸せですから。これで良かったんですよ。」
「そうか、それは良かった。」
ゆうりが顔を上げてにこりと笑うと彼も同じように笑った。
「僕はそろそろ戻るよ。染谷くんもあまり根を詰め過ぎないように。」
「ありがとうございます。」
去って行く藍染の背中を見詰める。完全に見えなくなった所でゆうりは大きく溜息を吐き零し机に突っ伏した。
「…何であの人相手に素直に喋っちゃったんだ自分……。」
あまり得意では無い人物に対して己の事を喋り過ぎてしまった。後悔の念がじわじわと押し寄せて来る。彼は慰めてくれたし同情もしてくれた。けれど藍染の言葉は何処か、心ここに在らずな印象を受ける。というか結局本も借りずに去って行ったし何が目的だったんだ。
意味が分からなかったが、考えても仕方ない。ゆうりは再び目の前の本に視線を落とした。
その後、結局落ち着いて本を読む事が出来ず2冊ほど借りて図書館を後にする。特に宛もなくふらついていた所、1人の男に捕まった。
「あれ〜?ゆうりちゃんじゃない。こんな所で何してるの?」
「あ、京楽さん。こんにちは。どこかでゆっくり本を読める場所は無いかなーと思ってちょっとウロウロしていました。」
声を掛けてきたのは京楽だ。この護廷十三隊の中で年齢が高く見える事も有り、緩く朗らかな雰囲気はまるで父のようでゆうりにとって好ましい存在になった。直ぐに笑顔を見せ彼に駆け寄る。