第4章 死神編【前編】
揃って首を横に振る女性陣に市丸はため息をついた。それから視線をゆうりへ移しほんのりと赤く染った頬をぺちぺちと叩く。
これ呼ばれたのがボクで良かったわ。他の男…檜佐木クンとか呼ばれたら完全にあかん事になってそうや。本人はなんもないかのように寝とるけど。
彼のそんな感情を知りもせずゆうりは寝苦しそうに唸り身じろいだ。
「ゆうり、起きや。」
「ぅ……喜助さん…?まだ眠い…おやすみなさい。」
ゆうりは1度僅かに瞼を持ち上げ小さく呟いた。そしてすぐ、すやりと眠りに着く。ピシッと空気が凍った。市丸は普段浮かべる薄ら笑みを深め不気味に笑う。彼女の抱える酒瓶を取り上げ机に置くと、そのままゆうりを背に背負った。
「…寮の場所分かったの?」
「まさか。しゃあないからボクん家連れてくわ。」
「…ま、任せてよろしいのでしょうか…。」
「だぁいじょうぶ、安心して任しや。」
心配なのはゆうり自身の身の安全なのだが…。
そう思うも市丸のあまりに貼り付けた笑顔に伊勢はそれ以上何も言えなかった。2人の去って行った後、ネムがポツリと呟く。
「…これがお持ち帰りというやつですか?」
「人選間違えたわね…。」
「市丸隊長、普段感情を表に出さないのに今日は随分わかり易かったですね…。」
そんな会話が繰り広げられている事など去った2人は知る由もない。
一方、市丸に背負われていたゆうりは彼が歩く度揺れる心地良い振動にゆっくりと目を覚ました。
「……あれ、ここ何処…?」
「起きたん?まだボクの家までもうちょい掛かるで。」
「ギン…?私、乱菊さん達と呑んでなかったっけ…?」
「キミが潰れて、寝はったからボクが呼ばれたんよ。覚えとらんの?」
「覚えてない…ギンの背中暖かい。」
それだけ言い残すとゆうりは彼の首へ緩やかに腕を回し肩に頬を寄せた。耳を擽るように聞こえてくる静かな寝息に市丸は思わず苦笑する。
「…生殺しやわ、こんなん。」
結局それからゆうりが目を覚ます事無く市丸の家へ到着した。彼はそのまま迷わず己の布団へ向かい広げられたそこへゆうりをそっと下ろす。