第4章 死神編【前編】
「ふふ、ありがとう。」
「それで…し、失礼は重々承知でお願いしたいんですけど…僕に回道を教えて下さい!!」
勢いよく下げられた頭にゆうりはポカンと口を開けた。まさか人に回道を教えてくれ、なんて頼まれる日が来るなんて思っていなかった。けれど五席に教えを乞う事は不思議な事でも無い気がする。
「…私でいいの?」
「はい!僕もゆうりさんみたいに、どんな人でも助けてあげられるようになりたいんです。戦うことは苦手だから…。」
確かに今までの会話の中で性格的に彼が戦闘向きでは無いと察するには充分だった。この四番隊は彼のように戦闘が苦手だったり怖くて、それでも死神になるしか無くて仕方なく四番隊を希望する者も多い。しかし彼は四番隊での活躍を望んでいるのだ。そんな気持ちを無碍にする事は出来ない。ゆうりは片手を彼に差し出す。
「いいよ、私が教えられる事は教えてあげる。というか、私もまだ練習中だから一緒に頑張ろう!よろしくね、花太郎くん。」
「…!!よろしくお願いします!」
ぱあっと花でも咲きそうな程笑顔を浮かべた彼と握手を交わす。初めて出来た後輩達を思い出した。彼らも元気だろうか。そんな事を考えつつ、山田と分かれたゆうりは今度こそ十三番隊へ足を運んだ。
「あれ、海燕さん?」
「よっ!久しぶりだなぁ、ゆうり!」
隊舎の入口には壁にもたれかかった海燕が立っている。昔と全く変わらない姿だ。ゆうりの存在に気が付くなり手を振って来たので、ゆうりもそれに返し直ぐに彼の元へ駆け寄った。
「どうしたんですか?誰かお待ちで…?」
「ばか、お前だよ。四番隊第五席ゆうりちゃん?」
「いててて!」
海燕の手が両頬を摘み左右に引っ張る。突拍子のない行動にゆうりは抵抗する間も無くされるがままになったが、顔を横に振って手を払った。彼は悪びれなく笑い自分の腰に両手を当て改めてゆうりを見下ろす。
「しかし噂には聞いてたが随分美人になったもんだなぁ。それに元気そうで何よりだ。」
「ありがとうございます…海燕さんは副隊長になられたそうですね!おめでとうございます!」
「おう、ありがとな。お前が持ってるソレ、報告書だろ?」
「その通りです。僭越ながら私も治療に携わったのでお持ちしました。」