第1章 事の始まり
山姥切国広、と呼ばれたその名が何か聞いたことがあった気がして、思い出そうと必死に記憶を掻き回す。確か、確かに聞いた覚えがあった筈、だったのだが。というか、聞いたというか彼?を元に何かしていたような…。あー、何してたかなぁ…。何か出てきそうで、出てこない。
「そ、その?き、聞いてるか…?」
そんな突然立ち止まり、黙り込んでずっと考え込んでいる私に和装の背の高い男の人は戸惑った声をあげる。だがしかし、今はちょっと付き合ってはいられない。だってもう少しで思い出せそうなのだから。というわけですまないけれど、少々御時間戴きます。というわけで無視して考え込む。
「な、なぁ、まんば…こいつ本当に御前か…?」
「…あ、嗚呼…そのようだが…」
「何か返事してくれねぇんだけど…ずっと考え込んでるんだけど…!?」
「そ、それは俺じゃないからな…わからない…」
こんな会話されてたけど知らないふりしておきます。私は何も知らない。
じっと、考え込む。思い出を漁る。確かに、確かに、確かに。あった、あった。彼に、関する何かが。
…ふと、とある冬の日が頭に思い浮かぶ。それは、しんしんと、雪が空から降り続いていた少し寒かった日。
_そして。
「アンタってさ、まんばと顔立ちに似てるよね!ちょっと私冬で本歌のコスしようと思ってるんだけどアンタまんばで参加ね!勿論ボイス全覚えして、彼に成りきって!」
なんて私の昔馴染みでオタクの奴にそう勝手にコスされ、セリフを無理矢理覚えさせられ、冬のコミケにて何か似てるとか言われて沢山の審神者さんに囲まれた思い出が、鮮明に脳内にフラッシュバックされる。
あ、これだ。この思い出だわ。