第1章 事の始まり
「嗚呼、そうだった。此処でこんな不毛な言い合いをするために来たわけではなかったんだよ、俺は」
「いや、もとはといえばこれお前が謎に帰還したのが悪いんだからな?少しのお咎めはあっても可笑しくないぞ??」
「別にいいじゃないかそれ位は。戦を放棄したわけでもあるまいし。というか敵は俺がほとんどぶった斬ったよ?」
「そうだがな …確かにそうなんだがな…」
「なら良いよね」
取り敢えず此方で山姥切さんと二人で首を傾げている間に彼方にも動きがあったようだ。いつの間にやら言い合いが半ば強引に終わらされている。銀髪の美人さんが良い笑顔でもういいですと小さな声で呟いては崩れ落ちた主を見下ろしていたから多分この言い合いは彼の勝利だったのだろう。…勝ち負けがあったかは不明だが。
まぁ、これで色々と一段落しただろうし、もうそろそろ本丸探索がしたいものだ。何時までも此処に居るわけにはいかない。というか早く本丸がどんなところか知りたい。
ということで一息ついては山姥切さんにもう行こうと伝えようとした、その時。
私は、気付いてしまったのだ。
……銀髪の美人さんが此方に滅茶苦茶接近していることに。
…………いや、ちょっと待って。この人此方に来てるんですけど。え、何?どういうこと?あ、あれか隣にいる山姥切さんの方に行こうとしてるんだよね、そうだよね?
そう私が動揺している間に無慈悲にも銀髪の美人さんは歩を進め、そして願い事空しく私の目の前でぴたりと止まりってはその端正なお顔で私の顔を覗き込んできた。直ぐ間近にこの美しい顔が有ることを認識した私は一気に体全体が硬直し、頭が真っ白に。
「……うん、やはり国広は女体になっても俺に似て綺麗だ」
そう言っては彼は満足気に微笑み、黒手袋をつけた手で布から少し出た私の前髪を優しく触る。それがように擽ったくて身を捩れど、彼はその美しい瑠璃色の瞳を緩やかに細めるだけで、手を退けてはくれない。せめてもの反抗として少し鬱陶しそうに睨み付けるが、それでも彼は愉しそうに笑うだけだ。
そこで、ふと我に返る。あれ、私今何という状況に。目の前には件の美人さん。しかも顔を覗き込んでいるから物凄いドアップだ。…私にそこまでの美人耐久は有りません!お陰様で今絶賛赤面中で心臓もばくばくと煩く音を立てている。
…こういう時ってどうすればいいんだ…?!