第1章 事の始まり
ふと、意識が覚醒する。と言ってもまだ覚醒しきっていないのか、頭が靄がかかったかのようにぼんやりとしてはいるが。まぁ、それも直ぐに直るだろう、それより昨日は何をしてたっけ、と小さく考える。確か昨日はずっとテレビの録画を見ていた気がする。そしてどうやら、この状況からしてテレビを見たままソファーで寝てしまったようだ。
そんな考え事しながら辺りを見回してみる。するとなんということでしょう、辺りにあったのは真っ暗な闇だけ。そのお陰で周りのもの全てが見えなくなっていた。右を見ても、左を見てもただただ黒い何かに覆われているだけ。ほんの僅かな光も、そして己以外の全ての色すらも無い。
これって何か可笑しいのでは、と考えてはみたがまだ眠たかったからだろうか。まぁ、寝ぼけているのだろう、という考えが私の中でまとまった。
そんな意識の覚醒から数十分経った。
結論から言おう。全く視界の真っ暗さは変わりませんでした。何故だ。
取り敢えず辺りを見回したが此処には何もない。本当に何もない。座っていた筈のソファーも、見ていた筈のテレビも、何もかもが。
そうしたら必然的に此処は何処だ、という話しになってくるが…生憎分かればこんな思いをしなくてもいいだろう。取り敢えず、歩き回ったりしたら何か見つかったりしないかな、なんて妙に冷静に思考をして、その場から離れてみることにした。
結局のところ、歩き回っても広がるのは闇ばかりで、やはり此処は自分の愛しの家ではないらしい。さて、本当にこれからどうしようか、と考え込んだ瞬間。
ひらり、と目の前に“桜の花弁”が闇の中を舞った。
よく見れば、辺りから他にひらひらと大量の花弁が真っ暗な闇の中を舞っている。こんなに綺麗な光景が見たこと無くて、呆然と立ち尽くし、その光景に見とれてしまう。まるで、何処かお伽噺のような、そんな神秘的な光景。
ふと、ひらり、と自分の方に一枚の花弁が舞い落ちてくる。その様子が本当に綺麗で、そっと掌で舞い落ちてきた花弁を受け止めた。
そして、その瞬間。
桜の花弁は眩い光を発し、辺りを白く包み込む。今までずっと真っ暗な闇だけを見ていたからか、目がチカチカしてしまって反射的に目を瞑ってしまった。そのあとの記憶は、もう、無くなっていた。
「山姥切国広だ。…何だその目は。写しだというのが気になると?」