第12章 二人の距離 前編
心は痛いままだけど、このままは嫌だ。信長様に会わなければ。
そんな思いを胸に、朝餉に向かった。
「おはようございます」
負けるもんかと、広間の襖を勢いよく開ける。
皆んなはすでに集まっていて、私が最後。
信長様の横に置かれた自分の膳に何となくホッとしながら横に座った。
「おはようございます」
信長様に挨拶をする。
「ん。」
素っ気なく、僅かな返事が返ってくる。
思えば、天守で一緒に過ごしてからはいつも一緒に(手を繋いで)朝餉に来る事が多かったから、別々に来て挨拶をするのは久しぶりだった。
隣に座って椀を手に取る。少し前までは、あんなに近かった信長様との距離が、今朝はとても遠く感じる。
ご飯を口に運ぶ信長様を見つめる。
(あぁ、やっぱり好き。でも、怖い)
何を話せばいいのか分からないまま、時間だけが過ぎていく。
そんな中、信長様が立ち上がった。
「皆の者、此度の戦、ご苦労であった。顕如は奇しくも取り逃がしたが、あれだけの痛手を受ければもう立ち上がれんだろう。貴様たちの今回の働きを労う為、今宵は宴を催す。家臣たちにも声を掛けて盛大に労ってやれ」
威厳に満ちた声が広間に響き渡る。
「はっ、ありがたき幸せ」
広間にいる武将全員が頭を下げる。
「アヤ、貴様も宴には出席せよ」
冷たく言い放ち、信長様は広間を出ていってしまった。
結局何も話せないまま、膳を見つめる様に固まっていると、
「アヤ、ちょっといい?」
家康が声を掛けてきた。