第12章 二人の距離 前編
「機嫌は直ったか」
私を抱きしめながら、信長様が囁く。
「っ、どうして、殺さなくてもいい人まで殺すんですか?」
戦国武将にこんな事、聞く方が間違ってるのかもしれない。でも、罪のない人の命まで奪うのは間違ってる。
「殺らなければ、殺やられる。当たり前のことだ」
「でもっ、捕まえて生かす方法も、話し合う事もできるはずです」
「そこまでだ。アヤ」
信長様は、突然身体を起こして私に跨り、首に手を掛けた。
「のぶ...なが..さま?」
見た事のない殺気に溢れた目が、私の首に手を掛け見下ろしている。
「貴様のこのか細い首など、簡単にへし折れる。顕如は、一度貴様を見ている。そんな奴の手先を生かしておけば、必ず貴様に害が及ぶ。貴様は大人しく、俺に守られていれば良い」
「そんな言い方.......っ」
反論しようとしたけど、軽く首を絞められ、それを出来なくされた。
「グッ、ゴホッ、ゲホッ」
ひどいっ!こんな事。
「暫く頭を冷やせ」
むせる私の首から手を離し、冷たく言い捨てて、信長様は部屋を出ていってしまった。
「信長さ、ゴホッ...っ」
「待って、話を......」
襖は無残にも閉まり、信長様との会話は閉ざされた。
「どうして、分かって欲しいのに」
(人の命は尊い事を、どうすれば分かってもらえるの?私が、顕如にあの時会っていなければ、今回沢山の人が死なずに済んだの?好きなのに。信長様の事が好きなのに。でも、血に染まるあの手を、握り返す事は出来ない。信長様っ!)
そのまま私は褥に泣き崩れ、
眠れないままに夜は明け、朝が来た。