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恋に落ちて 〜織田信長〜

第12章 二人の距離 前編



自室に戻り、着物を仕立て終えた私は、呉服屋へ届けるためそれを持って城下へと出た。




「こんにちは。仕立物を届けに来ました」
呉服屋の暖簾をくぐりながら挨拶をする。

「おうっ、アヤ」
元気な声が返ってきた。

「幸!来てたの?久しぶり」
国中を渡り歩く行商人の幸が店内に座っていた。

「昨日からまた世話になってんだ」

「そうなんだ。これ頼まれてた着物が出来たから」
幸の前に着物を広げて見せる。

「相変わらず良い仕事してんな」
丁寧な手つきで着物を見る幸。幸の元気な笑顔に少しホッとする。

「何だお前、元気ねーじゃねーか」
幸が私の顔を覗き込む。

「えっ?そんな事ないよ」

「ばーか、顔全体に不安だって書いてあるぞ」
デコピンを軽くされながら、幸に突っ込まれた。

「どうした、俺で分かる事なら聞いてやるぞ」

「う...ん」
お城のみんなの様子からして、あれ以上の事は教えてはくれなさそうだ。行商人として各地を渡り歩く幸なら、何か知ってるかもしれない。

「私、針子としてお城勤めしてるんだけど」

アヤは、自分が信長と恋仲である事は幸は知らないと思っているし、敢えて言うことでもないため話してはいない。幸もまた、自分は実は行商人ではなく信長の宿敵、武田信玄の家臣、真田幸村だとは言うつもりもないため、アヤの内情は知らないふりを通していた。

「今、城主の信長様が戦に出ていて、その..ふと、戦さ場での信長様がどんな風なのかを気になってしまって」

外部の人間にあまり詳しくは話せないため、アヤの話し方は歯切れが悪かったが、幸にはそれだけで、アヤが何を知りたがっているのかが分かった。

「お前の雇い主の悪口を言いたくないけど、信長は悪魔だ」

「えっ?」
目を大きく見開いて、アヤは幸を見た。

「何ビックリしてんだよ。奴が第六天魔王と呼ばれでるのは有名な話だ。戦場でのアイツは血も涙もない悪魔だってな」
宿敵信長を幸が良く言える訳がない。初めて見る幸の険しい顔と口調が話に真実味を持たせるには十分だった。

「信長様は、何を....したの?」
自分の中で、聞きたい自分と聞かない方がいいと言う自分の両方が戦っている。

「お前、本当に聞きたいのかよ」

震える私に、幸が念を押す。

「うん.....教えて幸」

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