第12章 二人の距離 前編
2日目の朝。
朝餉中の広間で、三成くんが現状を伝える。
信長様達は無事に村へと辿り着き、顕如が匿われている寺を取り囲んだとの事。今回の作戦には、政宗と光秀さんが参戦しており、このまま上手くいけば今日中にも決着が着くという。
「顕如は、どうなるんですか?」
(決着って、何を意味するの?)
「多分、討ち死にかと。もし捕らえる事ができても、石山本願寺での事から考えても、家臣もろとも死罪が相当かと」
優しい顔の三成くんから出た言葉とは思えないセリフに、心臓がドクンと大きく打った。
「死罪っ....?何か他に方法が?」
血の気が引いていくのが分かる。顕如は、信長様を殺そうとした人だけど、でも...
「あるわけないでしょ。いつまでも奴らを野放しにはしておけない。そんなことしたらまたどんな仕返しをされるか」
家康が私の考えを真っ向から切り捨てる。
そうだ、ここは戦国時代。戦う事は、生きるか死ぬかを決める事だ。そんな当たり前のことを今まで何で忘れていたんだろう。
歴史の授業は、正直殆ど覚えてない。でも.....
「顕如って一体、何をしたの?」
「顕如は、元は石山本願寺の僧です。顕如は、寺の僧でありながら、その権力をかさに、地方の門徒組織を動員して一向一揆を起こさせ、信長様に歯向かった張本人です」
頑張って思い出そうとする私の記憶を後押しをするように、三成くんが補足をしてくれた。
「それで、どうなったの?」
ざわざわと、胸が嫌な感じにざわつく。
「織田軍は、その一向一揆をねだ.....」
三成くんが先を続けようとすると、
「織田軍がその一向一揆を制圧して、顕如は石山本願寺を追われたんだよ。そんな事知ってもあんたには何も関係ないでしょ」
家康が、話を終わらせる様に早口で話し、遮った。
「そう、だけど...」
何だかしっくりこない。ずっと胸の奥にあったしこりのような感情が、何かを訴えてくる。
「アヤ、何の覚悟もないくせに、話を聞こうとしないほうがいいよ」
更に家康にピシャリと言いくるめられ、私はそれ以上聞くことができなかった。
「ごめん..なさい。針子の仕事に行ってきます」
『アヤっ』
「アヤ様」
みんなが私を呼ぶけど、もう振り返らず私は広間を出た。