第12章 二人の距離 前編
次の日、信長様は顕如が匿われていると言う寺のある村を目指し、出陣した。
さっきまで、バタバタしていた城内が急に静かになって落ち着かない。
針子仕事は全く手につかず、体を動かしていた方が紛れるため、城中の廊下を磨いて回った。
「アヤ、頑張ってるな」
私と同じく城に残った秀吉さんが、声をかけてきてくれた。
「秀吉さん。何だか落ち着かなくて。戦なんてここへ来て初めてだから。」
「心配するな。戦と言っても今回のは直ぐに片がつく小さなものだ。信長様も直ぐに戻られるさ」
「うん。それまでに城をピカピカに磨いておかないとね」
「おう、頑張れよ。何か困った事があれば何でも言えよ」
ぽんぽんっと、頭を撫でて、いつもの「大丈夫」を伝えてくれた。
信長様のいない天主で一人夜を迎えたのは初めてだ。
信長様の着物を胸に、無事を祈りながらその夜は眠りについた。