第12章 二人の距離 前編
信長様と天主で一緒に過ごすことになって少し経った頃、捻挫も治り、私は信長様に色々と交渉をして、針子仕事や女中さん達のお手伝いを再開させてもらえるようになった。(交換条件は、恥ずかしくて口では言えない)
以前の自室はそのまま針子部屋として使わせてもらっている。
色々な事に慣れてきたと思っていた矢先、
「戦?」
天主でくつろいでいた私に信長様が言った。
「そうだ。俺を本能寺で襲わせた黒幕が分かった」
「誰、だったんですか?」
何だか怖い。
「顕如と言う僧侶だ」
「えっ!」
その名前どこかで.....
「あっ、私、その人に会ってます」
「何?」
「初めて信長様に会った日の夜、逃げ出した時、政宗に捕まる前に林の中で会ったんです。お坊さんの格好をして、顔に傷のある顕如と名乗る人に」
(あの人が顕如。信長様を殺そうとした人)
そんな恐ろしい人に会っていたなんて、体が怖くて震えてくる。
「案ずるな。貴様に奴が会うことは二度とない」
震える体を信長様が、ふわりと抱きしめてくれた。
すっかり平和ボケしてたけど、私が元々信長様と会ったのは、あの本能寺の変で。
本来なら信長様は・・
ゾワっと全身の毛が逆立つように悪寒が走った。
「信長様」
ぎゅっと、離さないように信長様を抱きしめ返す。
「暫く城を留守にする。大人しく待っていろ」
安心させるように囁き、優しく口づけられた。
いつも、舌で下唇から包むように口づける信長様のキスが好き。
私はこれだけで信長様の思いを感じて、不安な気持ちが消されて行く。
ただこの夜は、信長様の口づけを受けても、身体中に愛を刻まれても、不安が完全には消えなかった。