第71章 夢が見せる奇跡 〜年末年始特別編〜
その言葉で心の不安のタガが外れた。
「……っ、不安なの。もし無事に産めなかったらどうしようって不安で…、この時代は私の育った時代みたいに医学が進歩していなくて、出産は命懸けだから……」
死ぬのも怖い、子供が無事に生まれなくても怖い。そして何より、私に何かあった時、まだ幼い吉法師と信長様を残して逝くなんて考えられないっ!
臨月が近づいてからはずっとそんなことばかりを考えていて不安だった。
「ふふ、少しマタニティブルーになったのね。実は私もあなたの時になったのよ。懐かしいわ」
「マタニティブルー……これが?お母さんもなったの?」
「そうよ。それが自然な事で、あなたが家族のことを大切に思っている証拠ね。でも大丈夫、一人目の時のように次のお産もきっと安産で健やかな子が生まれてくるわ。だからあなたは安心してゆったりと過ごせば良いの」
「お母さん……」
「それより、私に孫を抱かせてくれないの?」
母はチラッと吉法師の方に視線をやり微笑んだ。
「あ、もちろん!吉法師こっちにおいで」
吉法師を呼ぶと、信長様の膝から立ち上がりトコトコと歩いて来た。
「吉法師、ばあばだよ」
「ばあば?」
「母の母上だよ」
「ははのはは、ばあば、こんにちは」
ニコッと笑って吉法師はお母さんの元へ。
「初めまして。抱っこさせてね」
母は腕を伸ばして彼を抱き締め膝の上に座らせた。
「ばあば、」
「ふふっ、ばあばなんて言われるとくすぐったいわ」
母の顔に吉法師の小さな手が触れ、母は照れたように笑う。
叶うと思っていなかった光景が目の前にあり、涙がこぼれ落ちた。
そしてその涙をいつの間にか私の横に移動していた信長様がそっと指で拭う。
「信長様…」
「貴様の涙を拭うのは俺の役目だからな」
泣き虫だな、とその笑顔が言っている。
「アヤありがとう。会えて、幸せなあなたを見ることができて安心したわ」
「お母さん…、私も、私も嬉しかった。安土に来てくれてありがとう」
「「元気で」」
どちらともなくそう言って、吉法師を間に挟んで抱き合った。
そして意識が薄れていき目が覚めた。