第70章 あの頃の気持ち
唇を離そうとした時、ずっと伸びて来た腕に捕らえられ、唇が再び重なった。
「んっ…」
(やっぱり起きてたんだ)
口内を探りながら信長様は私と体の位置を逆転させ、私を組み敷いて深く濃厚な口づけをする。
「んんっ…」
かかる吐息も絡まる舌も熱くて、冷えていた心が温められていく。
触れ合う事って大切だ。
口づけだけで、こんなにも愛されてる事が伝わってくる。
息苦しさを覚えた頃、ようやく唇は銀糸を引きながら離れ、その糸を信長様の舌がぺろっと舐めとった。
「俺の寝込みを襲うならこれ位はしろと教えたはずだ」
そう言ってニヤリと笑う信長様。
「っ、信長様…」
お城の皆んなはよく、信長様は私に甘いと言うけど本当だ…
あんな事の後なのに、私を笑顔で抱きしめて受け止めてくれる。
「こんな風に貴様に起こされるのは久しぶりだな」
(あ……)
そうだ、私たちは付き合い始めた頃、私の外出禁止を解いてもらうための条件として、寝起きのキスとお風呂に一緒に入ることを約束した。
目が合えば軽い口づけは交わすけど、朝の約束のキスは、いつからしなくなったっけ?
吉法師が生まれてからは、彼の機嫌とお世話が最優先で、朝起きたらまず吉法師の所に行ってしまっていた…
「っ、ごめんなさい。私…」
仕事と子育てに没頭する余り、大切な信長様との時間がおざなりになってた…
「泣くな。俺が貴様の涙に弱いのは知ってるだろう?」
「っ、だって私、信長様に酷いことを…うぅー」
「貴様が俺に酷いのは今に始まった事ではない」
「ううっ、それはちょっと、あんまりですーううう…」
「本当のことだ。それ程に貴様と俺とでは思う気持ちに差がある」
言葉を紡ぐたびに、信長様は愛おしそうに私の顔に口づける。
「そんな事はありませんっ!好きだから、信長様の事が大好きだから嫉妬をするんですっ!昨日の事だって、本当の事を言って下されば良かったのに…」
「貴様に現場を見られた際に説明しようと思ったが、烈火の如く怒った顔で物陰から睨まれていては説明も何もない」
あっ、やっぱり……?
「私があそこにいた事、気づいてたんですか……?」