第70章 あの頃の気持ち
苦しい…、信長様がいないと、呼吸すらちゃんとできない。
いつも、いつも私は間違える。その度に反省するのにまた間違えてしまった。
今度こそ…呆れられた。そして飽きられちゃったんだ…!
不安で胸が苦しくなり廊下にうずくまっていると…
「アヤ?」
家康が私を心配そうに覗き込んだ。
「家康…?」
「何してるの?こんな所で…?」
「あの、私…信長様を探してて…」
「それよりも、あんた顔色酷いよ?薬、煎じてあげるから俺の部屋に来なよ」
家康はゆっくりと私の体を立たせてそう言った。
「ありがとう。でも、今それどころじゃないから…」
信長様を探さなきゃ…
「そんな顔で何言ってんの?いいから来てっ!」
「やっ、待って家康っ!」
家康が強引に私の腕を掴んで部屋へと連れて行く。
(こんな事してる暇ないのに…)
何を言っても手を離してくれなかった家康は、部屋の前まで来るとパッと手を離して襖を開けた。
「あんたに必要な薬はここに寝てるから。じゃあ俺はしばらく消えるから」
そう言うと、スタスタとどこかへ歩いて行ってしまった。
「……どう言う意味?」
強引に引っ張って来て私に必要な薬が寝てるって何……?
訳が分からず開け放たれた部屋の中を覗くと、座布団を枕にして横たわる信長様の姿を見つけた。
「……っ、信長様」
ここに…いたんだ…?
寝ている様に見える信長様の元に、起こさない様ゆっくりと、そして静かに近づいた。
寝てるのかな?
目を閉じて横になる信長様を見つめる。
こんな風に寝顔を見るのは久しぶりだ。
本当に整った顔…
カッコよくて男らしくて優しくて…
どうしてこんなに凄い人が私をって…ずっと不思議で…それは今も変わらなくて…
「信長様、ごめんなさい」
髪をそっと撫でて、眠る信長様に触れるだけのキスをした。