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恋に落ちて 〜織田信長〜

第70章 あの頃の気持ち



「お前に似てるからと言って、上に立つ者としてその遊女を無碍に扱う事はできない。かと言ってそのまま遊女として他の男に抱かれてお前を連想されることにも我慢ならない。だから信長様は誰も不利にならない様にあの女を落籍して年季明けには夫婦になろうと約束していた男の元に行かせてやったんだよ」

「政宗…」

政宗は、食事面において人の世話焼きをする割には、他人の行動に余り口を挟まず傍観する所がある。そんな政宗にここまで声を荒げて言わせてるのは、私が自分勝手な分からずやだからだ……


「反対に、お前なら許せるのか?町中の、信長様に憧れる女が信長様に似た男と関係を持ってまるで信長様に抱かれたかの様に語られるのを…」


「それは…」

そんな事、考えた事なかったけど、

許せるか許せないかと聞かれれば、許せないと答える。

だって、あの逞しい腕に抱かれるのも、強引な割に優しく口づけるのも、無駄のない引き締まった胸に顔を埋めるのも、「アヤ」って、甘く耳元で囁く声も全て…

「そんなの…嫌に決まってるよ」

私以外の人がそれを想像するだけでも耐えられない。


「信長様も同じだって事だ」

政宗はやっと分かったかって感じに、ポンっと私の頭に手を置いた。

「私…信長様に謝らないと…」

あんな酷い態度をとって…

「吉法師の事は任せとけ。美味いもの食わせて泣く赤子はいないからな」

ニッと、政宗はやっといつもの笑顔を見せてくれた。


「政宗ありがとう。私…信長様を探してくる」

「おう、行ってこい」

手を振る政宗と美味しそうにお粥を頬張る吉法師を厨に残して(滅多にないツーショット)、私は信長様を探しに広間へと向かった。


広間に行っても信長様はいない。

天主にもいない。

書庫にもいない。

私の部屋も湯殿も、念の為厠にも声をかけたけど見つからない。


(もしかして…本当に出て行った…?)

「……っ、」

不安が急激に襲って来て息が上がった。




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