第70章 あの頃の気持ち
「あれは…まぁ信長様の男心だ。分かってやれ」
政宗は笑いを堪える様にそう言うけど、
「男心って何?全然分からないよ。言い訳位してくれても良いのに…」
浮気心が男心だって言うの?そんなの全然分からない。それに信長様はただ怒るだけで…何も言ってくれなかった。
悔しくて、また目頭は熱くなる。
「耐えられないんじゃないのか?」
「え?」
「お前に似てる女が他の男に抱かれることがだよ」
「なに?」
「ただ似てるだけとは言え、その女を抱く事でお前を連想されるのが信長様には耐えられないんだろ?」
「っ、だからって、信長様本人がその人と情を交わして良いことにはならないじゃない」
何それっ!人はダメで自分は良いって言うの?
「お前…そー言うところは全然変わってないんだな」
「え?」
完全に頭に血が上っている私に、政宗は呆れた声を上げた。
「信長様が必死でお前を守ってることに、お前は昔からちっとも気付いてない。城を勝手に飛び出すし、真っ直ぐ帰って来いと言っても道草をする。挙句見たものをこうと勝手に決めつけて信長様を疑う。信長様も浮かばれないな」
「そんなこと、ちゃんと分かってるよっ!それに…政宗には言われたくない。政宗はいつだって自由じゃない」
「まぁ、そうだな。けどこれだけは言っとく。信長様はその女を抱いてなんかいない。あの日は確かにお前に似た遊女の元に行ったが、それはその遊女を落籍(ひか)してやるためだ」
落籍するって、
「それは、やっぱりその人の事が気に入ってるからでしょ?だって、落籍するって、大金を払ってその人の身請け人になったって事じゃないの?」
今頃どこかのお屋敷で囲ってるって事?
「お前なー」
政宗は堪忍袋の尾が切れた様に私のデコをピンっと強く弾いた。
「痛っ、何するの?」
「お前があまりに頭でっかちなことばかり言うからだ!いいか、よく聞け、信長様はその女を落籍して、愛する男と夫婦にさせてやったんだよ!お前が思ってる様な事は何一つ起きちゃいねえ」
「………えっ?」
言ってる意味が、よく分からなかった。