第70章 あの頃の気持ち
・・・・・・・・・・
朝、御殿から城の自室へとやってきた家康は、いるはずのない人物がそこに不貞腐れ寝転んでいる姿を発見した。
「……何で、俺の部屋にいるんですか?」
大方の予想はついているが…
「アヤに追い出された」
「はあっ?」
思った通り、原因はアヤ。
この城の城主はあんたでしょ?何追い出されてんの?と言う言葉を家康はかろうじて飲み込んだ。
(勘弁してくれ…何でいつも夫婦揃って俺の所に来るんだ…?)
そしていつも割に合わないのは自分だけ。
本人達はケロッと仲直りをして帰っていくことも、家康には分かっている。
「どうせいつもの夫婦喧嘩でしょ?迷惑ですから出てってもらえませんか?」
はっきり言ってこの二人の喧嘩には関わりたくない。
「冷たい奴だな、いつも隠れて泣いていた貴様を慰めてやった恩を忘れたのか?」
「はぁっ?いつの話ですか?もうとっくに時効でしょ」
それよりも、夫婦喧嘩にいつも巻き込まれる俺に恩賞をくれと家康は思ったが、その言葉もまた飲み込んだ。
「で、今回は何が原因ですか?」
「ふっ、何だ、聞きたいのか?」
「聞きたいわけないでしょっ!と言うか、やはり夫婦ですね」
(反応が同じだ)
「そんなに聞きたいのなら教えてやる。実はな…」
聞きたいなど一言も言っていないのに、信長は話し始めた。
今日はやることが沢山ある。戦に備えての薬作りに新薬の開発、駿府からの領地に関する資料も届いていたからそれにも目を通したい。なのに今は目の前のこの困った城主の話を聞かなければならない自分の立場に家康は何度も心の中でため息をついた。
(はぁ、頼むから、早く出てってくれ…)