第70章 あの頃の気持ち
「あ、あの…アヤ?」
一部始終を一緒に見ていた針子仲間が、気まずそうに私に声をかける。
「なにっ!」
「顔…怖いけど大丈夫?」
「大丈夫…に見える?」
「ううん、見えない。でもさ、あれは仕事なんじゃない?」
「遊女屋に行くことを仕事って言うのは男の勝手な都合だって、針子部屋のみんなが言ってたことでしょ?」
「そうだけど…でも、信長様ほどのお方だと、付き合いはあるんじゃない…かな?」
「…そうかもしれないけど…でも、あの人、私と同じ名前だった」
顔も…確かに私に似てた。
だから余計疑ってしまう。信長様も私と同じ顔と名前って女性に興味を持ったんじゃないかなって…
「顔は…そんなにアヤには似てなかったよ?きっと付き合いだよ。ね?」
「うん、…そうだよね。ごめん、キツく当たって…」
必死で慰めてくれる彼女は関係ないのに、カッとなって口調を荒げてしまったことに反省した。
「私の方こそごめん。見に来ようって誘ったのは私だから。この事、誰にも言わないから安心して。もう帰ろ?」
「うん…」
やっぱり、ここに来なければよかった。
攫われた時同様に、ここは鬼門なんじゃないかってくらい、良い事が起きない。
心はモヤモヤするけど、信長様を疑うのは彼女が言う通りで良くない。前に遊女と戯れる信長様を見た時も、信長様はこれからもこう言うことはあるって、天下を統一するまでは目をつぶれと、隠す事なく言ってくれた。
信じるしかない。
あの日、信長様を信じれきれなかったから私は毛利元就に攫われ信長様と別れる事になった。だから、今回はちゃんと信長様を信じよう。
そう心に誓ってお城に戻ったはずだったのに……