第70章 あの頃の気持ち
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お店を早めに閉めた私と針子仲間は、陽の沈み始めた遊女屋街に来ていた。
「あ、このお店じゃない?」
提灯が煌めく一店を針子仲間が指差し、私もつられてその店を見た。
店の前には遊女達が客引きをしているっぽい。
「あまりよく見えないね?」
暗くなり始めているのもあって、余り夜目の聞かない私は提灯の明かりを頼りに女の人たちの顔を確認する。
「もう少し、近づいてみる?」
針子仲間に袖を引かれ近づこうとした時…
「信長様、この店です」
ふいに、信長様と言う言葉が聞こえてきた。
(えっ?)
「ちょっ、ごめん、隠れなきゃ」
「えっ、何?どうしたの?」
驚く針子仲間に構わず、私は彼女の手を引っ張って、小屋の後ろに隠れた。
「アヤどうし…」
「しーーーっ、お願い静かにして」
不思議がる彼女に静かにしてもらい、私は小屋から外の様子を覗き込んだ。
聞き間違い?でも確か信長様って…
もしかして、私がここに来ることを事前に知って…?
これは、お仕置き確定!?
ぶるッと身震いしながら確認すると、やはりお店の前に信長様と政宗の姿が…
どうしよう…
ど迫力な怒鳴り声を想像して震えていると、
「信長様〜、ようこそいらっしゃいました。おアヤで〜す」
(え?)
店の中から私と同じ名前の遊女が出てきて信長様の腕に巻き付いた。
(なっ、何してるのっ!?)
振り解いてくれると思ったのに、信長様はその腕の上に自身の手を乗せ、
「貴様がおアヤか?」
ふふんと、いつもみたく不敵に笑った。
(ちょっ、ちょっと!)
「ささっ、信長様も政宗様もどうぞ中へ。本日は貸切となっております。心ゆくまでお楽しみ下さいませ」
「うむ」
(う、うむ、ですってーーーーっ!)
遊女に腕を取られ政宗と遊女屋へと入って行く信長様を、私は炎の様な眼差しで見送った。