第70章 あの頃の気持ち
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それから数日後、私はその日も大量の商品を持ってお店へとやって来た。
「……え、午前分もう完売したの!?」
「どうも遊女屋に新しい子が入ったみたいで、その子目当ての客が押し寄せて来てね」
「ええっ?女性が買ったんじゃなくて、男性が贈り物として買って行ったって事?」
そんな凄い子がいるの?
遊女屋の近くに店を構えていても互いの開店時間が正反対の為、全くもってその手の情報には疎い。
「何でも凄い人気らしいよ?贈り物がなければ相手にしないって高飛車な態度なのに、みんなそれも良いって言って次々と贈り物を手に来店するんだって」
「すごいね。でも贈り物ならこのエロ…艶襦袢じゃなくて櫛とか簪とかのが良い気がするけど…」
感性は人それぞれだけど、男の人から勝負下着を貰うって嬉しいものなのかな…?
「本人がこの店の艶襦袢が一番嬉しいって言ったみたいよ?」
「そうなの?」
それは有り難いけど、そんなにたくさんいる…?
不思議に思って頭をひねっていると…
「その子ね、どうも似てるらしいよ?」
針子仲間が口に手を当てコソッと私に伝えて来た。
「誰に?」
「アヤ」
「私っ!?」
「そう、信長様の寵姫であるアヤにそっくりって事で一躍有名になったらしいよ?」
「そんなの噂でしょ?」
「それが本当みたいよ。それも、おアヤって名乗ってるって」
「…っ、確かに私と同じ名前だけど…偶然じゃなくて…?」
「でも気になるでしょ?」
針子仲間は身を乗り出して聞いてくる。
「う、うん。似てるなんて言われたら気にはなるかな?」
しかも源氏名まで同じにしてるのは意図を感じなくもない。
「少し先の店にいるみたいだから、今日お店閉めたら見に行ってみない?」
「え、でも…」
寄り道をしたら信長様に怒られることは間違いなくて…、それに遊女屋に行くと、あの攫われた日の事を思い出してしまい、近くに店を構えていてもあの日以来行ってはいなかったから、抵抗がなくはない。
「顔だけ確認したらすぐに帰るから、ねっ、行こうよ」
「う…ん、じゃあ本当にちょっとだけね?」
好奇心で動くのは悪い事じゃない。信長様は好奇心の塊みたいな人だし。でもこの好奇心が後に私たち夫婦の危機を招くとは、この時の私は思っていなかった。