第70章 あの頃の気持ち
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「よいしょ…」
城下町のとあるお店にやってきた私は、お城から持って来た商品を床に置いた。
「アヤ、荷物これで全部?」
針子仲間が荷物の確認をする。
「うん、今日持って来たのはこれだけ。どう?結構売れてる?」
私は文机に行き収支の書かれた台帳をパラパラとめくった。
「今日も午前中分は完売したよ。既製品も売れてるけど、こー言ったのがほしいって注文も何件か入ってる」
「えー、すごいね」
「すごいのはアヤだよ。この襦袢は絶対売れるって言うアヤの読みが当たったわけだから…」
嬉しそうに針子仲間は言ってくれるけど…
「いや、凄いのはみんなの方。元々は私のお祝いに作ってくれたのが始まりなんだから…」
「確かに!その後も、信長様から特別注文を何度も受けたしね…」
針子仲間はイシシと含み笑いを私に向ける。
「もう、それは言わないで…思い出すだけで恥ずかしいから…」
そう、私たちお城の針子は、このお店で例のエロ襦袢を売っている。
自分で言うのも何だけど、城下町の流行は、いつもお城の武将や姫が身につけている物をきっかけに流行ることが多い。例えば、私が蝶をモチーフにした髪飾りを着けて城下に出かければ、それを見た町の女性たちがありがたいことに真似をしてくれ流行って行く。そんな感じで、私が信長様との初夜で例のエロ襦袢を着てそれが好評で信長様が誕生日に再オーダーして夫婦の営みを盛り上げていると言う噂が、多分針子達からお城の女中さん達へと広がり、気がつけば、城下でもそのエロ襦袢が欲しいと女性達の間で話題に…
恥ずかしい気持ちはもちろんあれど、その時の私はデザイナーとしての気持ちの方が優っていて、エロ襦袢(商品名は艶襦袢)のお店を出したいと信長様に直談判した。
信長様は、
「構わん、やってみよ」
と二つ返事でオッケー。どうせなら、遊女屋の辺りの方が店を構えやすいだろうと、直ぐにお店の候補を何店かピックアップしてくれ、そのうちの一店がこのお店だった。(店を見繕ったお礼はたっぷりと夜にさせられた)
オープンして直ぐにその勝負下着は人気となり、連日売り切れと大繁盛となった。