第69章 私の育った故郷では 〜信長様誕生日sp〜
「今日は吉法師も早く寝てくれたし、今のうち今のうち」
ドキドキとヒヤヒヤの狭間で、針子たちが仕上げて棚に入れてある着物を一枚づつ確認していく。
「うーーーん、こんな分かりやすい所にはさすがに入れないよね。人の机を探るのは気がひけるけど、背に腹は変えられない、みんなごめん、ちょっと見るよ」
手持ちの行燈を針子の一人の机の上に置いて、彼女の着物入れに手をかけた。
「ほう、針子部屋に盗っ人かと思って来てみれば俺の妻とは……」
(……………えっ!?)
聞き覚えのある低くて頼もしい声が、背中越しに聞こえてきた。
(そしてなぜか笑っている気がする…!)
ツーーーーッと、背中を汗が伝うのが分かった。
「………の、信長…様………?」
そろーーーりと振り返ると、
「何か探しておるのか?」
ニヤリと、それはそれは愉しいものを見つけたような顔の信長様が襖に手を掛け立っている。
「どっ、どうしてここにっ!」
(だって明日帰るって…)
「愛しい妻に早く会いたくて、夜道も厭わず戻って来たが…どうした、迷惑そうだな」
言葉は傷ついているみたいに言っているけど、顔と口はがっつり笑ってる…っ!
「お、お帰りなさい。私も早く会いたかったから嬉しいです」
開こうとしてきた針子の机の引き出しをバレないように後ろ手で締めて信長様に笑顔を作った。
「あまり嬉しそうには見えぬが……まぁ、良い。ここで何をしておったのか質問に答えよ」
楽しそうに口角を上げ近づいてくる信長様から逃げる術はなさそうだ。
…けど、
「さ、探しものをしていて、さっき急に思い出したので、こんな時間ですが探しに来てました」
私だって必死なのだ、そうそう真実を明かすことはできない。
心の中ではファイティンポーズを決めながら信長様に答えた。
(嘘はついてない。探し物は本当だし…)
「…ふっ、」
信長様はいつもの様に鼻で笑うと、私の腰を引き寄せた。