第66章 全てはあなたを喜ばせるため 〜信長誕生日sp〜
「さて、吉法師はそろそろ寝る時間だな」
信長様の膝の上で、吉法師は指をしゃぶりうとうとし始めた。
「あっ、じゃあ飲ませますね」
夜寝る時は、母乳を飲みながらでないと寝られない吉法師を私の方にもらおうと、信長様に手を伸ばした。
「いや、今宵はこのまま寝させてくる」
信長様は吉法師を優しく抱き上げ立ち上がった。
「でもそれじゃあまた起きて泣き出すかも.....」
これ以外の方法を知らない私は途端に不安になる。
「案ずるな、こやつとは今日たくさん話をした。奴も良く理解したはずだ」
「理解なんて.......できるんですか?」
そんな魔法の様な事、一体どうやって?
「アヤ、心配せずともこやつの腹は先程の粥でしっかりと膨れておる。こうして少しづつ、こやつなりに成長をして行く。時には手を離しこやつの成長を見守る事も大切だ」
「...........はい」
信長様の言う通りだ。これしかダメだと決めつけるから、大切な事を見逃してしまいがちになる。
赤ちゃんだから何を言ってもしょうがないと思ってしまう私に対して、信長様は常に吉法師を一人の人として接してる。やっぱり、全然敵わない。
「ふっ、貴様は今宵は俺の事だけを考えれば良い。愛される覚悟を決めておけ」
「っ、はっ、はいっ!」
最後にどかーんと甘い言葉が落ちて来て、頭の中は途端にその言葉で埋め尽くされる。
吉法師を隣の部屋に寝かせて来た信長様は、吉法師を抱いていたその手に何か別の包み物を持って現れた。
「これを貴様に」
「えっ?」
差し出された包を受け取ると、多分着物?が中に入っている様だった。
きっとこれは、信長様がお礼の気持ちで用意して下さった物だろうけど.......
「あの、......これは受け取れません」
床の上にそっと置いて信長様の方へ押し戻した。